虚偽告訴罪とは

虚偽告訴罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

虚偽告訴の罪について

同居する養女に性的暴行を加えたとして、逮捕・起訴されたAさんは、逮捕時から一貫して容疑を否認していました。
しかし、被害者やその兄の目撃証言が決め手となり、公判では有罪となり、高裁、最高裁を経て懲役12年の実刑判決が確定しました。
ところが、服役中のAさんからの再審請求を受け、検察が再捜査したところ、被害者もその兄も、実は被害を受けておらず、目撃もしていないとことを供述し、男性の関与を否定したのです。
被害者の新しい供述が客観的にも裏付けられ、被害者やその兄の証言が虚偽であったことが明らかになり、Aさんは服役から約3年半後に釈放され、再審ではAさんの無罪判決が言い渡されました。

まるで、ドラマのような話ですが、これは実際にあった事件です。
被害者やその兄は、当時まだ幼く、母親から強く問い詰められたことで嘘をつき、引っ込みがつかなくなったため、虚偽の証言をしたものと考えられます。

裁判は、人ひとりの人生を大きく左右するものですので、このような嘘の発言を行うことは、公正な裁判の実現を妨害する行為です。

刑法には、「虚偽告訴の罪」が規定されています。

第百七十二条 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。

本罪は、第一次的には国家の審判作用の適切な運用を、第二次的には個人の私生活の平穏を保護法益とすると解されます。

本罪の構成要件的行為は、「人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的」で行う「虚偽の告訴、告発その他の申告をする」ことです。
「人の刑事または懲戒の処分を受けさせる目的」における「人」は、他人のことを指し、実在していなければなりませんが、法人でも構いません。
「刑事の処分」というのは、刑罰だけでなく、少年の保護処分や売春婦に対する補導処分も含まれます。
また、「懲戒の処分」とは、公法上の監督関係に基づいて職務規律のために課される制裁のことをいいます。
「告訴」は、犯罪被害者等の告訴権者による犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示をいい、「告発」は第三者が犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示のことです。
「その他の申告」については、刑事処分を求める請求、懲戒処分を求める申立てが含まれます。
申告方法は、口頭であると書面とであるとを問いませんが、検察官や司法警察職員、懲戒権者に対して行われることが必要です。
申告は、自発的に行われたものでなければなりません。
そのため、捜査機関や懲戒権者らによる取調べを受けて虚偽の回答をすることは、申告にはあたらないとされます。

ここでいう「虚偽」とは、「客観的真実に反すること」をいいます。(最決昭33・7・31)
この点、主観的に真実に反しても、保護法益の観点からは処罰に値しないからです。
申告した事実は、刑事処分・懲戒の成否に影響を及ぼすようなものであることが必要です。
そして、捜査機関や懲戒機関の職権発動を促すに足るべき程度に具体的であればよいとされます。

また、本罪の主観的要件について、「申告事実が虚偽であることの認識」の他に、「人の刑事・懲戒の処分を受けさせる目的」が必要となります。
まず、「申告事実が虚偽であることの認識」に関しては、判例は、未必的認識で足りるとしており、「この申告事実は、客観的事実に反するかもしれない」との認識があった場合も故意があったものとされます。
そして、「人の刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」における姥久手kの内容をいかに解するかという点ですが、これについて判例・通説は、人が刑事・懲戒処分を受けさせる結果発生の未必的認識で足りるとする立場をとっています。

以上のような要件に該当した場合、虚偽告訴罪は成立し、3月以上10年以下の懲役が科される可能性があります。

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