メッセージの連続送信でストーカー規制法違反に
メッセージの連続送信でストーカー規制法違反に問われてしまったというケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~事例~
会社員のAさんは、神戸市中央区に住むVさんと交際していましたが、すれ違いにより別れることになりました。
しかし、AさんはVさんへの思いを捨てきれず、Vさんに対してつきまとったり連続して連絡を入れたりしていました。
こうしたことからVさんが兵庫県生田警察署に相談し、Aさんはストーカー規制法に基づいてVさんへの接触禁止命令を受けました。
それでもAさんは「何かあったら連絡してほしい」「幸せになってほしい」といったメッセージをSNSを通じてVさんに送り続けました。
Vさんは、もうやめてほしいとAさんに伝えたものの、Aさんからのメッセージの送信は止むことなく続き、1か月の間に80件のメッセージが一方的にVさんに送られることとなりました。
VさんはAさんに対して恐怖を抱き、最寄りの兵庫県生田警察署に相談。
Aさんは、兵庫県生田警察署にストーカー規制法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和4年2月21日神戸新聞NEXT配信記事を基にしたフィクションです。)
・ストーカー規制法とメッセージの送信
「ストーカーをすることは犯罪である」という認識は世間一般に知られていると思いますが、実際にどういった法律によってストーカー行為が規制されており、どういった行為がその法律に違反するストーカー行為となるのかまで知っているという方は多くないかもしれません。
今回のAさんの逮捕容疑である、いわゆるストーカー規制法(正式名称「ストーカー行為等の規制等に関する法律」)では、ストーカー行為について以下のように定義されています。
ストーカー規制法第2条
第1項 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
第5号 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
第2項 前項第5号の「電子メールの送信等」とは、次の各号のいずれかに掲げる行為(電話をかけること及びファクシミリ装置を用いて送信することを除く。)をいう。
第1号 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。次号において同じ。)の送信を行うこと。
第2号 前号に掲げるもののほか、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為をすること。
ストーカー規制法第2条第4項
この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(第1項第1号から第4号まで及び第5号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう。
つまり、ストーカー規制法では、「つきまとい等」が同じ人に対して繰り返されることで「ストーカー行為」となる構図になっています。
「つきまとい等」の中には、「拒まれたにも関わらず、連続して、(中略)電子メールの送信等をすること」も含まれており、その「電子メールの送信等」の中には、SNSのメッセージ送信も含まれます(ストーカー規制法第2条第2項第2号)。
ですから、SNSを通じてメッセージを連続送信することも、同一の人に対して繰り返せばストーカー規制法の「ストーカー行為」に当たり得るということになります。
ストーカーという言葉からは、物理的に相手の後をついて行くなどの行為が思い浮かびやすいですが、インターネット・SNSを通じたメッセージの送信でもストーカー行為となることに注意が必要です。
こうしたストーカー行為をした場合、ストーカー規制法の以下の条文によって罰せられます。
ストーカー規制法第18条
ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
・ストーカー規制法と接触禁止命令
今回の事例のAさんは、Vさんへのメッセージの連続送信をする前から、ストーカー規制法によるVさんへの接触禁止命令を受けていたようです。
ストーカー規制法では、「つきまとい等」をした者について、以下のように禁止命令等を出すことができるとしています。
ストーカー規制法第5条
都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、第3条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、その相手方の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。
第1号 更に反復して当該行為をしてはならないこと。
第2号 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
(※注:「第3条の規定」とは、ストーカー規制法第3条の「何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。」という規定を指します。)
禁止命令では、その「つきまとい等」をしないように命令するということ(第1号)以外にも、「つきまとい等」が行われないようにするためのこと(第2号)も命令できます。
例えば、「つきまとい等」をしていた相手方に近づいたり連絡を取ったりすることを禁止する接触禁止命令などが出されることが考えられます。
今回の事例のAさんは、以前行っていたVさんへの「つきまとい等」についてこのストーカー規制法に基づく接触禁止命令を受けていましたが、その後その接触禁止命令に反する形でメッセージの連続送信を繰り返し、「ストーカー行為」をしているという経緯です。
Aさんはストーカー規制法の禁止命令に違反してストーカー行為をしたということになりますが、こうした場合には、先ほど掲載した、単にストーカー行為を禁止する条文ではなく、以下の条文で罰せられることになると考えられます。
ストーカー規制法第19条
第1項 禁止命令等(第5条第1項第1号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
第2項 前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする。
すでに禁止命令を受けているにもかかわらずその命令に違反してストーカー行為をしたという事情は、単にストーカー行為をするよりもより悪質であると考えられるため、刑罰も重く設定されています。
今回の事例のAさんは、こちらの条文に当てはまると考えられます。
なお、たとえストーカー行為やつきまとい行為等をしていなかったとしても、禁止命令に違反しただけでもストーカー規制法違反となります。
ストーカー規制法第第20条
前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
SNSやインターネット環境が普及している現在、そういったものを通じてのストーカー規制法違反事件は身近な刑事事件の1つです。
被害者に対して繰り返し接触するというストーカー規制法違反事件の特性上、今回の事例のAさんのように、逮捕によって身体拘束される可能性も高いため、ストーカー規制法違反事件の被疑者となってしまったら、早期に弁護士に相談し、サポートしてもらうことが重要と言えるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部は、ストーカー規制法違反事件などの刑事事件を数多く取り扱う法律事務所です。
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