商標法に基づき特定の商標を登録することで得られる権利を商標権と言います。商標権があることで、その商標の使用者は独占的に、その商標を使用することができます。
専用使用権とは、商標法上の使用権の一種です。
商標法上の使用権とは、契約などによって他人の商標を使用する権利のことです。
そして、商標法上の使用権には、専用使用権と通常使用権があります。専用使用権は、商標権者も商標を使用できなくなる強力な独占権です。
商標権又は専用使用権が侵害された場合には、商標法上の罰則対象になるのです。
商標法違反事件の傾向
コピー商品や偽ブランド品で商標法違反が問題となる場合、詐欺罪の成立にも注意する必要があります。
コピー商品や偽ブランド品であることを隠して販売した場合は、商標法違反と共に、詐欺罪(刑法246条1項)も成立する可能性があります。
近年ではネットを通じて個人的に販売行為を行うことができるようになってきました。
そのため、業者ではない一般の人が商標法違反で検挙されるケースも増加しています。
商標法違反で有罪判決を受ける場合、損害額が多額・組織的犯行・犯行を主導したなどの事情があると刑罰が重くなり、場合によっては実刑判決の可能性も生じます。
主な商標法違反の犯罪類型
侵害罪
商標権又は専用使用権を侵害した場合、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれらの併科となります(商標法78条)。
商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為をした場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれらの併科となります(商標法78条の2)。
法人の代表者などが、法人の業務に関し、商標権を侵害した場合、その法人にも、3億円以下の罰金刑が科されるとの両罰規定が定められています。
法人の代表者が、法人の業務に関して、商標権を侵害する行為とみなされる行為をした場合、その法人にも1億円以下の罰金が科されます(商標法82条1項1号)。
商標権又は専用使用権の侵害罪の典型例は、ブランドやメーカーのロゴなどを勝手に使ったり、コピー商品や偽ブランド品を製造・販売・所持したりする場合などです。
コピー商品や偽ブランド品を販売する行為は、商標や商品であるロゴやデザイン等と類似した物の使用であるとして、商標権や専用使用権を侵害する行為とみなされる行為に該当します。
また、それらを販売や譲渡、輸入目的で所持する行為もみなされる行為に該当します。
コピー商品が、極めて精巧にできているような場合、その販売行為は、商標権や専用使用権の侵害行為に該当するとされる可能性もあります。
こうした行為は、商標法違反として懲役刑や罰金刑の対象となりますが、自分で使用する目的の場合や購入した場合には、刑事処罰の対象とはなりません。
詐欺行為罪
詐欺によって商標登録等の権利についての決定・審決を受けたとき、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます(商標法79条)。
虚偽表示罪
商標保護対象でないのに、他人の商標を虚偽で表示したりするような行為が対象となっており、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科せられます(商標法80条)。
不正競争防止法違反
商標法以外にも、他人の商品などと混同を生じさせるような混同・誤認惹起行為を行った場合には、不正競争防止法違反や関税法違反によって一定の刑事罰が定められています。
- 自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡等の行為により、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為
- 自己の商品等表示として、他人の著名な商品等表示と同一又は類似のものを使用し、又はその使用をした商品の譲渡等をする行為
- 他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等をする行為
これらの行為をした場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれらが併科されます(不正競争防止法21条2項)。
不正競争防止法の場合は、商標法とは異なり、商標を直接保護するというよりは、他人と誤解を与えるような商標を利用することによって、不正な競争をすることを防止するための規定です。
したがって、不正競争防止法で保護される対象は、登録された商標に限られません。
関税法違反
商標権を侵害する物品や不正競争防止法で規制される物品を輸入した場合には、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、又は懲役と罰金の併科となります(関税法109条第2項、第3項、69条の11第1項9号10号)。
コピー商品・偽ブランド品の持ち込み行為は、外国へ渡航し、コピー商品・偽ブランド品を身に着けて持ち込む場合のほか、海外のコピー商品・偽ブランド品を販売するインターネット上のサイトから購入し、郵送されたものが税関で発覚した場合にも、知的財産権を侵害する物品の輸入行為として関税法違反にあたります。
また、輸入された商標権を侵害する物品や不正競争防止法で規制される物品は、税関で差し止めされ、没収・廃棄処分されることになります。
~商標法違反・不正競争防止法違反等事件における弁護活動~
無罪の主張
コピー商品・偽ブランド品を輸入や所持や販売してしまったような場合でも、商品を本物であると誤信していたような場合は、故意に欠けるので商標法違反や不正競争防止法違反には問えません。
ただ、商標法違反や不正競争防止法違反の故意は比較的緩やかに認められる傾向にあるため、本当に誤信していた場合には取り調べや調書作成の対応は慎重に行う必要があります。
商標法違反・不正競争防止法違反の容疑で逮捕又は取り調べを受けてしまった場合は、なるべく早く弁護士による取調対応のアドバイスを受けることが大切です。
弁護士は、取調対応の指示のほか、客観的な証拠に基づいて容疑者・被告人が、無実であることを主張・立証します。
被疑者・被告人の行為が自己使用目的であったことや、被疑者・被告人がコピー商品・偽ブランド品であると気づかず販売していたこと等を主張していきます。
被害弁償や示談交渉
商標法違反・不正競争防止法違反等事件において違反事実に争いがない場合は、それを素直に認め速やかに被害弁償や示談交渉に入ることが重要です。
起訴前に示談が成立すれば、不起訴処分となり事件が終了し、前科を回避できる可能性もあります。
また起訴後の示談成立でも、執行猶予等の減刑を目指すうえで重要な考慮要素となります。
減刑(情状弁護)の主張
商標法違反・不正競争防止法違反等事件で有罪判決が免れないという場合でも、被告人にとって有利な事情を裁判官に示すことで、できるだけ刑を軽くしてもらえるように尽力します。
商標法違反・不正競争防止法違反等事件における具体的な量刑の考慮要素は、犯行の動機・犯行の手口・被害額・被告人の役割・示談成立の有無などがあります。
その結果、執行猶予判決が言い渡された場合、懲役刑の執行を免れる可能性もあります。
身柄解放活動
商標法違反・不正競争防止法違反等事件で逮捕・勾留されてしまった場合であっても、容疑者・被告人に逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがないことを主張して、早期の釈放・保釈を目指します。