痴漢・不同意わいせつ・不同意性交等

痴漢事件で問われる罪・成立する犯罪

【兵庫県 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(迷惑防止条例)】
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対して、不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。違反した者は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処する(兵庫県迷惑防止条例第3条の2、15条)。

【不同意わいせつ罪】

1号 

⑴から⑻までに掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処するものとする

⑴暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

⑵心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

⑶アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

⑷睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

⑸同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

⑹予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

⑺虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

⑻経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

2号

行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

3号

十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

【不同意性交等罪】

1号

前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。

2号

行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。

3号

十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

痴漢事件の容疑で逮捕されてしまった場合、これまでは迷惑防止条例違反で立件されることが多かったように思われます。

しかし、令和5年の刑法改正により、痴漢行為により「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること」に該当する可能性が生じることから、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪での逮捕の可能性が高くなるということが考えられます。

□ 迷惑防止条例違反の説明

公共の場所

迷惑防止条例における公共の場所とは、社会一般に開放され、不特定多数の人が自由に出入りし、利用できる場所を意味します。

迷惑防止条例における公共の場所に当たるかどうかの判断は、痴漢現場の構造や犯行時の状況によって変わりますが、一般的には会社内のトイレや個人の家などは含まれません。都道府県によっては、迷惑防止条例のなかに公衆の目に触れるような場所という規定が追加されている例があります。

公共の乗物

迷惑防止条例における公共の乗物というのは、文字通り公共交通機関である電車やバス、船や飛行機を指します。

卑わいな言動

多くの都道府県の迷惑防止条例では、他人の身体を衣服の上から又は直接に触ることについて規定するとともに、包括的な規定として卑わいな言動を規定するという形をとっています。

迷惑防止条例における卑わいな言動とは、社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいいます。強制わいせつでいうわいせつな行為よりも広いものと捉えられています。

なお、単なる会話・発言であっても、それが性的道義観念に反するみだらなものと認められれば、卑わいな言動として迷惑防止条例違反の対象となります。

□ 不同意わいせつ罪について

わいせつな行為

不同意わいせつ罪におけるわいせつな行為とは、性的な意味を有し、性的羞恥心の対象となるような行為をいいます。

迷惑防止条例でいう卑わいな言動と、不同意わいせつ罪でいうわいせつ行為のどちらに当たるかは、慎重な判断が必要ですが、一般的には態様が悪質であるほどわいせつ行為と言えると思われます。

類型

不同意わいせつ罪が成立するのは、①被害者が16歳以上の場合には一定の類型に該当する場合、②被害者が13歳以上16歳未満であり、被害者と加害者の年齢差が5歳以上である場合には手段等問わずわいせつ行為があった場合③被害者が13歳未満であれば年齢差関係なくわいせつ行為があった場合です。

類型については不同意わいせつ罪のページをご覧ください。

~痴漢事件における弁護活動~

・ 無罪の主張

痴漢事件は、多くの場合、客観的な証拠に乏しく、被害者の供述に頼った立証にならざるを得ないため、冤罪の生まれやすい犯罪です。捜査機関の圧力に屈して作られた嘘の自白調書や被害者の供述のみに編重した裁判により、痴漢行為をしていないにもかかわらず有罪になったケースもあります。

多くの痴漢事件では、被害者の供述以外にめぼしい証拠がありません。従って、捜査機関は長期にわたって身柄を拘束して、取り調べを行い、自白させようと働きかけるわけです。

無罪を主張する場合には、弁護士が容疑者に対して、嘘の自白をしないよう、捜査機関の働きかけに屈しないようサポートし続けます。そして、弁護士による独自の調査、記録の精査や再現実験などにより、被害者供述の矛盾を探し出します。

また、近年では、痴漢事件で容疑者が否認していても、釈放が認められるケースも増えています。身に覚えがない痴漢の容疑で捕まっても、長期の身柄拘束を恐れて安易に認めるのではなく、無罪を主張したうえで、早期の釈放を目指すべきです。

・ 示談交渉

痴漢事件には、被害者が存在します。もしも痴漢事件を起こしてしまった場合には、事件解決にもっとも効果的なのは被害者との示談を成立させることです。検察官や裁判官は、処分の軽重を判断するにあたり、被害者との示談が成立しているかどうかを重視します。

また、起訴されてしまった後でも、示談の成立は、裁判上有利な情状として考慮され、より軽いの判決が得られる可能性が上がります。

このように、被害者との示談は非常に有効ですが、痴漢事件の場合は、被害者の多くが加害者・犯人に対して強い拒絶感や処罰感情を有しています。中には、加害者とは絶対に示談をしないという被害者の方もいらっしゃいます。加害者である犯人が直接に被害者との交渉に当たれば、逆効果となる恐れがあることは容易に想像できるでしょう。示談交渉に関しては、痴漢事件の経験豊富な弁護士に任せることで、誠心誠意謝罪の意を表しつつ、被害者の気持ちや立場に配慮した交渉を進めることができます。

・ 再発防止と早期釈放

痴漢事件で逮捕されても、適切な取り調べ対応と弁護活動によって早く留置場から出ることができます。痴漢事件で逮捕された方が早く留置場から出るためには、逮捕の後に勾留されないことが大切です。勾留を阻止するためには、逮捕後の早い段階で、弁護士と面会して取り調べ対応を協議し、身元引受人の協力を得ることが大切です。その上で、弁護士から検察官や裁判官に対して、被害者との接触防止策や本人の反省を主張し、釈放してもらうよう働きかけます。

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