【強制性交等罪】
暴行又は脅迫を用いて、13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて、性交・肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、5年以上の有期懲役となります。また、13歳未満の者に対し、性交等をした者も同様です(刑法177条)。
これまで、強姦罪として処罰の対象となっていたものが、平成29年7月13日の改正刑法の施行により、強制性交等罪と名称及び罪となる対象や罰則の引き上げなど変更が加えられることとなりました。
旧強姦罪の規定― 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も同様とする。
以下、これまでとの変更点に触れながら、順にみていきましょう。
・ 対象(被害者)
従来の旧強姦罪の客体は、女子とされていたため、男子に対して成立することはありませんでした。しかし、強制性交等罪では、客体に男女の区別はなく、男性を被害者とした場合も含まれます。
また、13歳未満の者には、暴行や脅迫を用いずとも強制性交等罪は成立します。13歳未満の者は、性的な事柄について十分な判断能力がないとの前提から、後見的見地から絶対的保護が与えられているということです。
・ 暴行・脅迫
暴行は、身体に向けられた不法な有形力の行使を、脅迫は、害悪の告知をいいます。これらは、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものである必要があるが、反抗を抑圧する程度に達する必要はありません。
また、暴行や脅迫は、姦淫の時点まで継続している必要はありませんが、それらの影響によって、反抗を著しく困難にする状態が姦淫時にも継続している必要があります。
これ等の点は、従来の旧強姦罪の規定と異なるところではないと考えられます。
・ 対象行為
これまでの旧強姦罪では、被害者は女性のみと想定されており、「姦淫」という行為、すなわち、男性器の女性器への一部挿入という行為のみが規制の対象とされてきましたが、改正法である強制性交等罪では、肛門性交や口腔性交も規制対象とされることになりました。
これまで、肛門性交や口腔性交については、被害者が女性であっても強姦罪の対象ではなく、強制わいせつ罪として規制の対象とされてきましたが、改正後は、これらの行為についても強制性交等罪として、より重い罰則により規制されることになっています。
【準強制性交等罪】
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者も、5年以上の有期懲役が科されます(刑法178条2項)。
・ 心神喪失・抗拒不能
心神喪失とは、精神的な障害などによって正常な判断能力を失った状態をいい、抗拒不能とは、心理的又は物理的に抵抗ができない状態をいうとされています。気絶しているときや睡眠中、酩酊状態などの場合のほか、医療行為と誤信して心理的に抵抗できないような状態で姦淫する場合が考えられます。
【監護者性交等罪】
18歳未満の者に対し、その者を現に監督する者であることに乗じて性交等をした場合にも、5年以上の有期懲役が科せられます(刑法179条2項)。
従来、性犯罪の大部分が、告訴がなければ起訴することのできない親告罪とされてきました。これは、被害者の心情や負担に鑑みて、刑事裁判にかけるか否かを被害者の意思に委ねようとするということが趣旨であったわけですが、かえって被害者への負担になるとか、加害者が処罰されないことに対して、批判も強く、今回の改正により親告罪の規定が撤廃され、非親告罪化する運びとなりました。
また、性犯罪の厳罰化の潮流を受け、法定刑も「3年以上」から「5年以上」の有期懲役に引き上げられることとなりました。ここで気を付けなければならないのは、原則として実刑の可能性が非常に強くなったということです。執行猶予が付けられるためには、もちろん、犯罪自体の事情や反省、被害者への謝罪や弁償示談等、様々な有利な要素が必要となるのですが、法律上、執行猶予が付されるのは、3年以下の懲役刑が言い渡される場合のみということとなっています。
すなわち、「5年以上」の有期懲役がベースとなる強制性交等罪においては、法律上の減刑や酌量減刑など法定刑以下に減刑される場合を除いては、執行猶予判決を得ることが出来なくなったということです。
なお、従来の集団強姦罪の規定は、強制性交等罪の罰則が引き上げられたことにより、これに吸収される形で廃止されることとなっています。
【改正後のポイント】
1 親告罪の規定の撤廃 → 告訴がなくとも起訴可能
2 被害対象者が拡充 → 男性も含まれる
3 規制対象行為が拡充 → 肛門性交や虚空成功も含まれる
4 法定刑の引き上げ → 5年以上の有期懲役
強制性交等罪は、性犯罪の中でも重い法定刑が規定されています。罰金刑がないため、起訴されれば正式裁判で懲役刑に問われることになりますし、被害者との接触が懸念されることから、身柄の拘束も長期間となりやすいです。
また、実刑判決を受ける可能性も高い犯罪です。近年では、出会い系サイトを通じて知り合った女性に対する事件や、風俗店において禁止されている本番行為を行って事件となるケースがよく問題とされています。
~強制性交等罪・準強制性交等罪における弁護活動~
・ 示談交渉
これまでの旧強姦罪の規定では、被害者による告訴がなければ起訴することのできない犯罪、すなわち、親告罪とされていたことから、示談によって被害者に告訴を取下げてもらうことができれば、不起訴処分となり、裁判を受け有罪判決となることはありませんし、前科がつくこともありませんでした。
もっとも、改正後の強制性交等罪では、親告罪の規定が撤廃されたことにより、示談による告訴の取下げに成功しても、必ずしも不起訴処分が得られるとは限らなくなりました。しかし、事件発覚前の示談によりそもそも事件化を防いだり、早期の示談の成立による不起訴処分の獲得など、示談交渉が重要な活動であることには変わりありません。また、起訴されてしまった後でも、示談の成立は、有利な情状として考慮され、減刑につながる可能性が大きく上がります。
このように、被害者との示談は非常に有効ですが、強制性交等罪にかかる事件の場合は特に、被害者が犯人に対して強い拒絶感や処罰感情を有していることがほとんどです。中には、絶対に示談などしないという被害者の方もいらっしゃるかもしれません。このようなもとで、加害者である犯人が直接に被害者との交渉に当たって、逆効果となる恐れがあることは容易に想像できるでしょう。
まずは誠心誠意謝罪の意を表すことが大切ですが、交渉に当たっては被害者の気持ちや立場に立って、十分な配慮のもと行われるべきです。示談交渉に関しては、弁護士にお任せください。
たとえば、二度と加害者と被害者が会うことのないように、通学時間や通勤時間、経路の変更などを被害者の方に約束します。場合によっては、引っ越しなども検討し、加害者としてできる限りの範囲で被害者の方の不安を取り除けるかを一緒になって考えます。
・ 再発防止と環境改善
性犯罪を起こした方は、自分のした行為を恥じ、深い後悔をされている方がほとんどです。にもかかわらず、犯行を常習的に行ってしまう場合があります。繰り返し性犯罪で捕まった場合、反省や更生がされていないとして、重い処分がなされる可能性が高まります。
しかし、そのような常習者のなかにも、犯罪行為を辞めたいと思いながら、自らをコントロールできずに繰り返してしまう方がいます。このような場合には医療機関などの専門機関への受診と治療などを行い、根本からの改善を試みるように促します。
・ 無罪の主張
強制性交等事件・準強制性交等事件として警察が捜査を始めても、実際には性交渉をしていない、あるいは同意の上での行為であった場合など、強制性交等・準強制性交等罪に当たらないにもかかわらず捜査対象となり、取調べや逮捕が行われる場合があります。
そのような場合、弁護士は、犯罪の成立を否定する客観的な証拠を提出したり、捜査機関の見解が十分な証拠に基づくものではないことを主張したりして、不起訴処分・無罪判決を勝ち取るように尽力します。
また、依頼者の方に対しては取調べ対応などについての的確なアドバイスをして、捜査機関により思いがけず不利な証拠を作られてしまわないようにします。
・ 身柄解放活動
強制性交等罪・準強制性交等罪の事件で逮捕されると、その後釈放・保釈を受けることは非常に難しいです。
しかし、早期の身柄解放を実現できなければ、それだけ元の生活を取り戻すことが困難になりますし、容疑者の方やそのご家族の苦労も増えてしまうでしょう。そこで弁護士は、検察官や裁判官に積極的に働きかけることで、釈放・保釈を勝ち取り身柄拘束が長期化しないように尽力します。