覚せい剤取締法とは
覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するために、覚せい剤及びその原料の輸出入や所持、製造、譲渡、使用などを禁止しています(覚せい剤取締法1条)。
一般に、覚せい剤の違法取引では、シャブやスピード、氷、クリスタル、S、やせ薬などと呼ばれていますが、法律上、覚せい剤とは、フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及びその塩類、又はこれと同種の作用を有する一定の物を意味するとされています。
そして、法は、学術研究などで許可された一部の者以外が、覚せい剤を扱う行為を厳しい罰則をもとに取り締まっています。
覚せい剤取締法における禁止行為ごとの罰則は以下の通りです。
輸入・輸出・製造 | 1年以上の有期懲役 |
営利目的での輸入・輸出・製造 | 無期又は3年以上の懲役、 情状により1000万円以下の罰金が併科 |
所持・譲渡し・譲受け | 10年以下の懲役 |
営利目的での所持・譲渡し・譲受け | 1年以上の有期懲役 |
使用 | 10年以下の懲役 |
原料の輸入・輸出・製造 | 10年以下の懲役 |
原料の所持・譲渡し・譲受け・使用 | 7年以下の懲役 |
* 覚せい剤事犯においては、覚せい剤及びその原料は、没収されることになります。
* 営利目的で輸入や所持などをした場合には、覚せい剤取締法によって懲役刑が大きく加重されます。
覚せい剤は、反社会的組織の資金源になっているともいわれており、その蔓延を防ぐためには、営利目的での所持や輸入等の行為をより厳しく取り締まる必要があるからです。
営利目的とは、犯人が自ら財産上の利益を得ることを目的とすることや、第三者に財産上の利益を得させることを目的とすることをいいます。
~覚せい剤取締法違反事件における具体的な弁護活動~
無罪の主張
覚せい剤の所持や譲り渡し等の事件では、たとえば中身を知らされず運ばされた場合のように、違法な物とは知らずに行った行為で検挙されることが考えられます。
違法性の認識については、それが覚せい剤であるという認識までは要求されず、違法な薬物であるという程度の認識で足りるとされているため、知らなかったという弁解はなかなか通用しませんが、本当に知らなかったような場合には、犯罪が成立しないのですから、客観的な状況をもとに無実であることをしっかりと主張する必要があります。
また、仮に覚せい剤取締法違反事件などを起こしてしまっていたとしても、それが捜査機関による違法な捜査によって発覚したものであれば、その違法性ゆえに不起訴処分や無罪判決を得られる可能性があります。
ですから、職務質問、所持品検査、採尿・採血、捜索、差押え、逮捕、勾留、取調べなど各捜査段階において、重大な違法行為がなかったか・それによって重要な証拠である覚せい剤・麻薬が収集されたのではないかという点を徹底的に調査して不起訴処分や無罪判決の獲得を目指します。
環境整備・再犯防止
覚せい剤取締法違反などに争いがない場合は、可能な限り寛大な処分が下されるように、効果的な情状弁護を行っていくことが大切です。
具体的には、犯行を素直に認め反省している旨の意思表示をした上で、薬物に対する依存性・常習性がないこと、再犯の危険がないこと、共犯者との関係では従属的な立場にあったことなどを説得的に主張します。
特に薬物犯罪は、自分の力だけで再犯を防ぐことが困難ですから、専門医や薬物依存からの回復のための施設などを利用することも重要です。
薬物依存は、そこから抜け出すことは容易ではないですし、裁判官もそのことは十分理解しています。
ですから、減刑や執行猶予付き判決の獲得には周りの協力を得られる環境づくりが十分にできていることを裁判で示すことが重要です。
早期の身柄解放
覚せい剤取締法違反事件などで逮捕・勾留されてしまった場合でも、事案に応じて釈放や保釈による身柄拘束を解くための弁護活動を行います。
覚せい剤事犯では、身柄を開放することによって、その期間に再度覚せい剤に手を出すのではないか、ということが非常に危惧されています。
また、覚せい剤は被害者のいない密行性の高い犯罪ですから、共犯者との口裏合わせなどによる証拠隠滅の可能性も高いと判断されがちです。
このように、覚せい剤事件で逮捕・勾留されると、長期間身体拘束を受ける可能性が高く、保釈も認められにくいのが現状です。
しかし、そのような場合でも、証拠隠滅のおそれがないことや逃亡のおそれがないことを示す事情を示すとともに、場合によっては、一刻も早い治療のために早期に身柄を解放する必要があるとの主張をすることで、釈放・保釈の判断がなされることもあります。