公務執行妨害罪

公務執行妨害罪(刑法95条)

「公務員」が「職務を執行するに当たり」、これに対して「暴行又は脅迫を加えた」場合、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」になります。

公務員によって執行される職務を保護するための規定であり、公務員を特別に保護する趣旨の規定ではありません。

「公務員」

国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいいます。
外国の公務員は公務員には含まれません。

法令により公務に従事する職員とは、公務に従事する根拠が法令にあることを意味します。
法令には、法律・命令・条例のほか、抽象的な通則を規定する限り、行政内部の組織作用を定めた訓令なども含まれます。

従事すべき公務とは、国又は地方公共団体の事務を広く指します。
判例は公務に従事する職員であるためには、職制上職員と呼ばれているかは問いませんが、単純な機械的・肉体的労務に従事する者は含まれません。

「職務を執行するに当たり」

職務には、権力的・強制的なものであることを要せず、広く公務員が取り扱う各種各様の事務の全てが含まれます。

職務を執行するに当たりとは、職務を執行するに際してということを意味します。
職務を開始しようとする場合等、本来の職務の執行と時間的に接着したこれと切り離せない一体的関係にあるとみることのできる範囲内の行為が含まれます。

暴行・脅迫

公務執行妨害罪における暴行は、公務員の身体に対して直接であると間接であるとを問わず不法な攻撃を加えることをいいます。

脅迫は、人を畏怖させる害悪の告知を広く含みます。

職務の適法性

条文上では明記されていませんが、妨害された職務の執行は適法なものでなければなりません。
公務執行妨害罪が規定されているのは、公務員の職務執行を保護するためですが、違法な職務の執行は保護に値しないと考えられているのです。

職務の適法性を肯定するためには、

  1. 職務が公務員の抽象的職務権限に属すること
  2. 公務員が職務を行う具体的権限を有していること
  3. 職務執行が有効要件として定められている重要な方式を履践していること

これら3つの要件が必要です。
公務員は行うことが出来る職務の範囲が決まっています。
抽象的職務権限とは、たとえば、消防職員が税金の徴収をする権限がないというように、その職務一般として権限の範囲外であるものを意味します。

そして、抽象的な権限には属したとしても、その職務が具体的な権限に基づかない場合にも適法性が否定されます。
さらに、たとえ具体的な権限があっても、重要な手続きを踏んでいないような場合には違法な職務とみなされます。

これらは、法令を基準として判断されます。行為時の状況を前提として一定の職務執行が認められる場合、法律上の要件が具備されていれば職務執行は適法となります。

~どういう場合に犯罪になるのか~

ケース1
兵庫県明石市在住のAさんは、警察官が覚せい剤取締法違反の現行犯人を逮捕する際に、適法に差し押さえたうえで、整理のためにおいていた覚せい剤注射液入りアンプルを、足で踏みつけて壊してしまいました。 

このケースでは、証拠物であるアンプルを踏みつけて壊してしまっている点で、警察官の公務を妨害したといえますが、その行為が公務執行妨害罪でいう暴行に当たるのかが問題となります。

Aさんは、アンプルを踏みつけて壊してしまいましたが、警察官を直接殴りつけたり、蹴りつけたりしたわけではありません。
しかし、ここでの暴行は、直接公務員にたいして攻撃を加えた場合に限られません。間接的に公務員に向けて何らかの物理力を行使したことで足ります。

Aさんのした行為は、警察官が差し押さえた証拠物を損壊するものですから、その警察官に向けて間接的に不法な物理力を行使したものということが出来ます。
したがって、Aさんには公務執行妨害罪が成立します。

判例でも同様の事案で、本罪の暴行に当たることを認めています。

ケース2
兵庫県芦屋市に在住のBさんは、朝自宅から出勤する際に、警察官が来て、詐欺罪の被疑事実で逮捕するといわれました。
Bさんは、今は忙しいので明日にしてくれと言いましたが、警察官はBさんの腕をつかんで手錠を掛けようとしました。
これに対して、Bさんは手を振り払うなどの抵抗をしましたが、その際に警察官を押し倒し、全治5日の打撲を負わせてしまいました。
もっとも、このとき警察官は逮捕状を持っておらず、被疑事実の要旨を伝えることもしていませんでした。

このケースでは、公務員である警察官が、まさにその職務である逮捕を執行するに際して、警察官を押し倒すという暴行を行ったものといえます。

しかし、警察官は、逮捕状を持っておらず、被疑事実の要旨も伝えていませんでした。

通常逮捕を行うには、法律上、裁判所の発布した逮捕状を被疑者に示し、被疑事実の要旨を伝えたうえでなされなければなりません。
そして、強制的に身柄を拘束するという効果を有する逮捕手続きは、人権と重要な関係を有するものですから、この手続きに関する規定は非常に厳格なものです。

ですから、警察官が、逮捕状を示さなかったり、被疑事実の要旨を告げずに逮捕を執行したのは、重要な方式違反であり、警察官の行為は違法な職務行為であるといえます。

なお、逮捕状が発布されている場合、逮捕状を持っていない場合に急速を要するときは、逮捕状の緊急執行というものが認められています。
このような場合は、逮捕状を示さずに逮捕を執行することが出来ますが、今回のケースでは、当初から逮捕目的で警察官が自宅に来て逮捕を執行しているため、急速を要する場合とは言えないでしょう。

以上から、Bさんの行為は、警察官による違法な職務行為に対して行われたものですから、公務執行妨害罪は成立しません。

ただし、Bさんはわざと警察官を攻撃してけがをさせているため、別途傷害罪が成立する余地はあります。
しかし、Bさんの行為は、警察官の違法な行為から免れるためにしたものであって、その方法も相当程度にとどまるものですから、正当防衛が成立するでしょう。
したがって、今回のケースでは傷害罪も成立しないと考えられます。

~公務執行妨害事件における弁護活動~

公務執行妨害事件では、公務員のどのような行為が保護されるべき職務行為に当たるか分かり難い場合があります。
問題とされた行為が、公務員に対して行われたものなのか、公務員の職務を行うに際して行われたものなのか、一概には言えません。
また、公務員の職務活動が違法である場合もあり得ます。

このような場合、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部の弁護士は公務員の行為やそれに対してなされた行為の性質や適法性を精査し、職務行為に違法があったような場合には、徹底的に追求し、不起訴処分あるいは無罪判決の獲得を目指します。

 

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