刑法252条以下
単純横領罪―自己の占有する他人の物を横領した→5年以下の懲役
業務上横領罪―業務上自己の占有する他人の物を横領した→10年以下の懲役
ケース 神戸市中央区で貸金業を営む会社に勤めているAさんは、債権の回収を行った直後、会社に入れるはずの金銭を自己の費消目的で自分のカバンに入れて持って帰りました。 会社のオーナーは、債権回収表には記載されているはずの金銭が入金されていなかったため、調査したところ、Aさんが回収金を盗んでいることが発覚したため、兵庫県警生田警察署に被害届を提出しました。 その後、捜査がなされ、Aさんは逮捕され勾留されることとなりました。 |
横領罪は、自分の占有する他人の物を不法に領得する犯罪です。
財物を委託した者と委託された者との間の信頼関係を破るところに本質があります。
ポイントとしては、他人の物ではあるけれど、自分が預かっている(占有する)物を領得するという点です。
ケースの場合、会社の債権を回収したAさんが持っている金銭は、会社の物であるはずです。
それと同時に、現実に回収した金銭を所持しているのはAさんなのですから、Aさんが占有していることになります。
そして、Aさんは債権回収を会社の職務として行っているのですから、会社のために回収金を所持しているのであって、これは会社との委託関係に基づいて所持しているものといえます。
また、横領罪には、単純横領罪の他にも業務上横領罪と遺失物横領罪が規定されています。
業務上横領罪は、業務上の地位に基づいて占有する他人の物を横領するという点で、単純横領罪よりも刑が重く規定されています。
業務とは、一般には、社会生活上の地位に基づいて、反復・継続して行われる事務のことをいいます。
簡単にいうと、業務上横領の場合の業務とは、「仕事上の」と理解しておけば良いでしょう。
今回のケースでもAさんは、債権回収という仕事上、占有していた回収金を着服したものですから、Aさんには会社に対する業務上横領罪が成立することになるでしょう。
これとは異なり、単なる事務員であるAさんが会社の事務所にある金庫が偶然空いているのを見つけ、中の金銭を持ち逃げした場合はどうでしょうか。
この場合、金庫の中の金銭の占有はAさんにはありません。
金庫のカギを持っているわけでもなく会社のお金を管理する立場にもないわけですから、現実に所持しているということもできないというわけです。
このような場合は、会社の金銭を盗み出したとして、窃盗罪が成立します。
~横領事件における注意点と弁護活動のポイント~
1 証拠や資料の存在
横領の疑いを掛けられた場合、もっとも重要となるのは、横領行為を示す客観的資料があるかどうか、ということです。
たとえ、疑いを掛けられても、横領の資料や証拠がない限りは、そもそも事件として立件されません。会社などから横領を疑われた際には、何を根拠として疑いを持っているのかを把握することが重要です。
仮に会社などが警察に被害届や告訴した場合に、警察が動くほどの証拠が存在するのか、逮捕・勾留されるおそれや裁判になる可能性はあるのか、裁判になればどのような判決となるかについて、正確な見通しを立てることが弁護士の役目です。
正確な見通しを持つことで、示談交渉が必要か、有用かどうかを慎重に見極めることが可能となります。
2 示談交渉、示談書の作成
横領罪は、親告罪ではありませんが、財産に関する犯罪ですので、被害者に対して被害弁償などを行い、示談を成立させることが、事件の穏便な解決に有効です。
被害者としても、被害の賠償を最優先に望むことが多いので、性犯罪などとは異なり、示談交渉自体を受けてもらえないということはないでしょう。
また、事件を公にしたくないとの会社の判断から、早期の示談成立によって、被害申告がなされず事件化されずに終結することもあります。
ただし、注意が必要なのは、示談書の作成についてです。
示談がまとまると、示談書を作成するのが一般的ですが、この書面に不備があると、示談が成立したはずなのに被害届が出されてしまったり、後になって追加で損害賠償請求されたりする恐れが残ります。
示談書は、後から紛争を蒸し返されないように、法律的に問題がなく、不備のないものを作成する必要があります。
兵庫県内で横領事件を起こしてしまい示談交渉でお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部の弁護士にご相談ください。
3 正当な理由がある場合―不法領得の意思を欠く
たとえお店の商品を持ち出したとしても、その目的がより安全確実に商品を管理するためであった場合などには、横領罪は成立しないと考えられます。
横領罪の成立に必要な不法領得の意思が欠けているといえるからです。
不法領得の意思とは、任務に背いて権限がないのに所有者でしかできない行為をする意思をいい、これが外部に対して発現したとみられる行為をした時点で横領したと認められます。
それにもかかわらず、警察や検察の捜査対象になってしまった場合、決して虚偽の自白をすることなく無実を主張しましょう。
依頼を受けた弁護士は、不法領得の意思がないという客観的な証拠を収集提出する、アリバイや真犯人がいることを証明する証拠を収集提出するなど、依頼者の無実を証明し不起訴処分・無罪判決を勝ち取るための弁護活動を積極的に行います。
4 起訴されたら
単純横領罪や業務上横領罪には罰金刑が規定されていません。そのため、公判請求されてしまえば、有罪と判断された場合、執行猶予付き判決か実刑判決のどちらかとなります。
起訴された事実に身に覚えがない場合、横領罪の成立要件について、一つずつ証拠を基に要件を満たしていないことを主張していきます。
起訴された事実に争いがない場合には、弁護士は、できる限り軽い量刑となるように情状弁護活動を行います。
被害者への謝罪文を作成していただき証拠として提出することもあります。
また、事件を起こした背景に借金問題やギャンブル癖があるような場合では、本人の生活環境の改善を促します。
その場合には、ご家族にも協力を得て、本人を監督する旨の誓約書していただいたり、情状証人として法廷の場で本人の更生をどのようにサポートするか話していただいたりします。
その他、被害弁償・示談の成立、犯行の経緯や動機など諸般の事情を精査した上で、情状酌量の余地があると裁判官に対して示すことができる事情を説得的に主張して、執行猶予付き判決や減刑を目指します。
最期に
横領罪は検挙率が90%以上(犯罪白書平成26年度版)と非常に高いので、もしも魔がさして会社の金銭に手を出してしまった場合等、捕まるかもしれないと不安に感じている方は、ご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部では、今後の見通しも含め、早急な対応により、不起訴処分を含め、出来得る限り軽微な処分となるよう尽力します。