爆破予告で偽計業務妨害罪

爆破予告で偽計業務妨害罪

偽計業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県淡路市に住むVさんは、元交際相手のAさんから、Vさんが住むマンションを爆破するとLINEで爆破予告を受けました。
Vさんは怖くなり、すぐに兵庫県淡路警察署に相談しました。
相談を受けた淡路警察署の警察官は、マンションや周辺に不審物がないか捜索しましたが、何も見つかりませんでした。
後日、警察署はマンション付近にいたAさんを、爆破予告で警察を出動させたとして、偽計業務妨害の疑いで逮捕しました。
(神戸新聞NEXT 2019年6月17日21時25分掲載記事を基にしたフィクションです)

偽計業務妨害罪

上記ケースでは、Aさんは偽計業務妨害の容疑で逮捕されました。
それでは、今回は、偽計業務妨害罪とはいったいどのような犯罪なのかについてみていきたいと思います。

第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

本条の前段は信用棄損罪についての規定であり、後段が「偽計業務妨害罪」についてのものとなります。
偽計業務妨害罪の保護法益(法によって保護される利益)は、人の業務の安全です。
ここでいう「業務」とは、自然人または法人、その他の団体が社会生活上の地位において、あるいはこれと関連して行う職業その他の継続して従事することを必要とする事務をいいます。
この事務は、経済的に収入を得る目的でなくても構いません。

さて、偽計業務妨害罪の客体である「業務」には「公務」も含まれるのでしょうか。
公務については、公務執行妨害罪において、「暴行又は脅迫」という限定された妨害手段に対してのみ保護されています。
一方、業務妨害については、人の業務を①虚偽の風説の流布や偽計(刑法第233条)、②威力(刑法第234条)、③電子計算機損壊等(刑法第234条の2)という妨害手段から広く保護しています。
そのため、公務執行妨害罪で限定的に保護されている公務を業務妨害の罪で保護されている業務に含むことが適切か否かが問題となるのです。
判例は、権力的・支配的性質の公務は業務妨害の「業務」に含まれないが、非支配的公務、特に私企業的な公務は含まれ、非支配的な公務に対しては、公務執行妨害罪と業務妨害罪とが競合的に成立し得るとしています。
つまり、強制力を行使する権力的公務については公務執行妨害罪のみの適用があり、その他の公務については、公務執行妨害罪と業務妨害罪の双方の適用があるのです。
しかし、権力的公務であっても偽計に対しては自力での妨害排除機能が認められないので、偽計業務妨害罪の成立を認める裁判例も多くなっています。
例えば、ネットの掲示板に無差別殺人予告を行い、警察を警戒出動させて本来の警ら業務等を妨害した事例につき、偽計業務妨害罪の成立を認めています。(東京高判平21・3・12)

次に、偽計業務妨害罪の行為についてですが、「偽計の風説の流布」または「偽計を用いて」、「人の業務を妨害する」ことです。
「虚偽の風説を流布」とは、虚偽の事項を内容とする噂を不特定多数の者に知れ渡るような態様において伝達することをいいます。
「偽計」とは、人を欺罔・誘惑し、または他人の無知や錯誤を利用することをいいます。
偽計は「人」に対しての行為を指し、「機械」に対しては含まれません。

ここで、業務妨害罪である「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」を区別する業務妨害手段の違いについて説明したいと思います。
「偽計」は、相手の錯誤を誘発する行為であって、相手の意思を制圧する行為を「威力」といいます。
これらの区別は具体的場面において難しい場合がありますが、判例は概して、それが外見的にみて明らかである、公然と行われた妨害行為が「威力」であり、外見的にみて明らかでない、非公然と行われた妨害行為は「偽計」としています。

では、ここで上記ケースにおける爆破予告が「偽計」若しくは「威力」のどちらに当たるのかについて検討してみましょう。
上記ケースでは、AさんがVさんに対して「マンションを爆破する」と連絡し、怖くなったVさんが警察に通報し、警察が出動したものです。
この事件(業務妨害)の被害者は、通報を受けて不審物の捜索や警戒にあたった警察です。
しかし、Aさんは、被害者である警察に対して直接爆破予告をしていません。
つまり、被害者に対して公然と行われた妨害行為ではないため、当該業務妨害は「偽計」を用いて遂行されたと言えるでしょう。

偽計業務妨害罪で被疑者として取調べを受けた、あるいは逮捕されたら、すぐに弁護士に相談することが大切です。
取調べでどのような供述をするかは、その後の処分にも大きく影響しますので、自己に不利な供述調書を取られないためにも、早期に弁護士に相談し、取調べ対応についてのアドバイスを受けるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、偽計業務妨害事件も含めた刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
刑事事件でお困りであれば、弊所の弁護士に今すぐご相談ください。

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