詐欺罪と業務上横領罪
詐欺罪と業務上横領罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
Aさんは、兵庫県宍粟市にある会社の経理課長です。
普段から会社の預金通帳や取引印は、Aさんが保管していました。
Aさんは、消費者金融に返済するため、架空の取引伝票を起票し、会社の経理部長に対し、この架空の取引伝票を見せて現金支出の決裁を受けていました。
部長の決裁を受け、Aさんは預金通帳や取引印を用いて、決裁を受けた現金を引き出し、現金を自分の物にしていました。
Aさんが自己都合により退職した後に、Aさんの行為が発覚し、会社から全額返済する旨の連絡を受けました。
返済できなければ兵庫県宍粟警察署に被害届を提出すると言っており、Aさんは自分の行為が何罪に当たるのか、できれば事件化することなく穏便に解決したいと思い、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
詐欺罪か?業務上横領罪か?
上記ケースでは、Aさんは会社のお金を扱う経理担当者です。
しかし、社内ルールでは、Aさんの上司である経理部長の決裁がなければ請求金額を支払うことができません。
この場合、Aさんは経理部長を騙して会社の現金を引き出し、自分の物にしており、詐欺的手段を用いて横領しているので、この行為は詐欺罪となるのか、それとも横領罪になるのか、という問題が生じます。
それでは、まず詐欺罪と業務上横領罪がどのような罪であるのかみていきましょう。
詐欺罪
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
詐欺罪は、①人を欺いて財物を交付させた場合(1項詐欺)、および②人を欺いて、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合(2項詐欺)に成立する罪です。
詐欺罪が成立するためには、「人を欺く行為」をし、それにより「相手方が錯誤に陥り」、「物や財産上の利益が交付され」、「物や財産上の利益が移転する」といった一連の流れがあることが必要となります。
業務上横領罪
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
業務上横領罪は、業務上の委託に基づき自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。
業務上横領罪における「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務のことをいいます。
典型例は、経理など会社のお金の出し入れを担当している人が、会社のお金をくすねた場合には、業務上横領罪となります。
一方、そのような地位にない社員が会社の金庫に保管していたお金を勝手にとった場合には、業務上横領罪ではなく窃盗罪となります。
さて、上記ケースでは、詐欺罪と業務上横領罪のどちらが成立し得るのでしょうか。
詐欺罪と横領罪は、客体の「占有が行為者にあるか否か」が分かれ目のポイントです。
詐欺罪が、「他人の占有する他人の財物」を欺く行為により取得する罪であるのに対して、横領罪は、「自己の占有する他人の財物」を自分の物とする罪です。
よって、両者の違いは、「目的となる財物の占有が行為者にあるか他人にあるか」という点です。
ですので、財物を自己の物とするに当たり、詐欺的手法が用いられていたのであっても、当該財物の占有が行為者にあれば横領罪となり、その財物の占有が他人にあり、自己の者とするに当たり詐欺的手法が用いられたのであれば、欺く行為により財物の占有を取得したものとして詐欺罪となる、というわけです。
Aさんは、会社の経理課長で、普段から会社の預金通帳や取引印を保管しています。
預金から引き出した現金はAさん自ら保管=占有していました。
Aさんは、その現金を自分の物とするために、会社にルールに従い架空の取引伝票を上司に見せて決裁を得たにすぎず、Aさんに対しては業務上横領罪が成立すると考えられます。
業務上横領事件では、会社も横領した額を回収したいと考えているので、ちきんと被害弁償をすれば、刑事事件として警察に相談しないケースも少なくありません。
事件化する前に、被害者に被害弁償を行い示談をすることが、事件を早期に解決する有効な手段です。
業務上横領事件で会社に発覚し対応にお困りの方は、一度刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談されてみてはいかがでしょう。
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