過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪

過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪

過失運転致死傷罪危険運転致死傷罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県神崎郡福崎町の道路で、10代の男女5人が乗った軽乗用車が道路脇の縁石にぶつかり横転し、乗っていたVくんが車外に投げ出され、頭などを強く打って死亡し、他の4名も重軽傷を負う事故が起きました。
兵庫県福崎警察署は、運転していたAさんを過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕しましたが、軽乗用車の定員は4人で現場の制限速度は時速30キロだったのですが、事故当時は時速80キロほど出していたと供述しており、警察は危険運転致死傷に切り替えて調べることになると言われています。
(実際の事件を基にしたフィクションです)

人身事故で問われる罪とは

乗用車やバイクなどを運転し、人身事故を起こしてしまった場合、免許停止や免許取消などの行政処分の他に、刑事処分が科されるおそれがあります。

人身事故を起こした場合に問われ得る罪は、主に、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下「自動車運転処罰法」といいます。)に規定されています。

1.過失運転致死傷罪

第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

「自動車の運転上必要な注意を怠」った結果、人に怪我を負わせたり、死なせてしまった場合に適用される罪です。
運転をする上の「過失」=「不注意」には、前方不注意やわき見運転、巻き込み確認を怠ったことや、ウィンカーを出さずに車線変更したこと、歩行者の飛び出しに気づかなかったことなどが含まれます。

上記ケースにおいて、例えば、Aさんがわき見運転をして道路脇の縁石にぶつかったのであれば、過失運転致死傷罪が適用されるものと考えられます。

2.危険運転致死傷罪

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

危険運転の類型は、
①酩酊運転致死傷・薬物運転致死傷(第2条第1号)
②準酩酊運転致死傷・準薬物運転致死傷(第3条第1号)
③病気運転致死傷(第3条第2項)
④制御困難運転致死傷(第2条第2号)
⑤未熟運転致死傷(第2条第3号)
⑥妨害運転致死傷(第2条第4号)
⑦信号無視運転致死傷(第2条第5号)
⑧通行禁止道路運転致死傷(第2条第6号)
です。

上記ケースにおいては、Aくんが法定速度30キロのところ80キロで走行していたということですので、かなりのスピードを出していたことが想像されますので、④に該当すると考えられます。
過去の判例では、「進行を制御することが困難な高速度」について、「速度が速すぎるため自動車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいうと解される。」と考えられています。(東京高裁判決平成22年12月10日)

上の判例のように、様々な状況に基づき、「進行を制御することが困難な高速度」で車を運転したか否かが判断されることになります。

過失運転致死傷罪危険運転致死傷罪の法定刑は大きく異なります。
危険運転致死傷罪は成立せず、過失運転致死傷罪となることを客観的な証拠に基づいて立証する必要があります。

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