ひったくり事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県洲本市の路上を歩いていた高齢女性に、原付バイクで背後から近づき、女性が持っていたカバンをひったくろうとする事件が起きました。
女性は、カバンを盗られまいとカバンを手放そうとしなかったため、数メートル間原付バイクに引きずられた結果、腕や脚に擦り傷を負ってしまいました。
被害女性は、すぐに警察に通報しました。
捜査に乗り出した兵庫県洲本警察署は、現場付近の防犯カメラの映像から原付バイクに二人乗りしている若い男2名を特定しました。
後日、兵庫県洲本警察署は、AとBを強盗致傷の容疑で逮捕しました。
(フィクションです)
ひったくりは何罪になるの?
被害者に背後から忍び寄り、持っているカバンなどを一瞬で奪う「ひったくり」は、どのような罪になるのでしょうか。
ひったくりは、多少なりとも被害者に対して何らかの接触を要します。
その接触の程度や具体的な状況により、窃盗罪が成立する場合もありますし、強盗罪となる場合もあります。
(1)窃盗罪
ひったくり事件の多くは、窃盗罪に該当します。
窃盗罪は、刑法235条に以下のように規定されています。
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪が成立する要件は、
①他人の財物を
②不法領得の意思をもって
③窃取したこと
です。
①他人の財物
窃盗罪の客体は、他人の占有する他人の財物です。
「占有」とは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいいます。
②窃取
窃盗罪の実行行為である「窃取」というのは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
③不法領得の意思
窃盗罪が成立するためには、主観的要件も満たす必要があります。
主観的要件のひとつは、故意であり、窃盗罪における故意は、①財物が他人の占有に属していること、および、②その占有を排除して財物を自己または第三者の占有に移すことを認識することです。
加えて、不法領得の意思の要否については争いがありますが、判例上認められた要件となっています。
不法領得の意思は、権利者を排除する意思および他人の物を自己の所有物のようにその経済的用法に従い、これを利用または処分する意思のことです。
ひったくりは、他人が持っているカバンなどを、当該所有者の意思に反して、自己または第三者の占有に移すものですので、窃盗に該当するでしょう。
しかし、以下でも解説するように、ひったくりの状況が、相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行に至っている場合には、窃盗にとどまらず、強盗となることがあります。
(2)強盗罪
強盗罪は、刑法236条に次のように規定されています。
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
強盗罪は、
(1項) ①暴行または脅迫を用いて、
②他人の財物を
③強取したこと
(2項) ①暴行または脅迫を用いて
②財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させたこと
によって成立する罪です。
①暴行・脅迫
強盗罪の実行行為は、「暴行または脅迫」を用いて、他人の財物を「強取」することです。
その手段となる「暴行・脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが求められます。
ひったくりは、犯行抑圧に向けられた暴行ではなく、暴行を手段とするものであっても基本的には窃盗罪に当たるのみですが、暴行の程度如何によっては強盗罪が成立することがあります。
被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫に判断するにあたっては、暴行・脅迫の態様、行為者と被害者の性別・年齢・体格・人数、犯行の時刻・場所、犯行時の被害者と行為者の態度、被害者の心理状況・被害状況などの事情を総合的に考慮して判断されます。
相手方の隙をついて、追い抜きざまに、持っていたカバンなどを引っ張って金品を奪うひったくりの場合、相手方に対し、一定の接触はあるものの、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行を加えたとは言えないことが多く、窃盗にとどまることになります。
しかし、上のケースのように、相手方が金品を奪われないように抵抗したため、金品を奪うためにさらにカバンなどを引っ張り続けるなどの暴行を加えるひったくりの場合、さらに金品を奪うために暴行などが加えられていることから、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行などを加えたと評価することが多く、強盗罪が適用されることがあります。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金とその振り幅も広いですが、強盗罪のそれは、5年以上の有期懲役と、罰金刑はなく重い刑罰が科される可能性があります。
また、強盗の結果、相手方に怪我を負わせてしまった場合、強盗致傷となり、裁判員裁判の対象になります。
以上のように、ひったくりは、その犯行態様によって成立し得る罪が異なります。
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