無賃乗車で詐欺罪

無賃乗車詐欺罪に問われる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
岡山県の駅でタクシーを拾ったAさんは、タクシー運転手に「赤穂駅までお願いします。」と告げました。
目的地に到着したため、タクシー運転手はタクシー代を請求したところ、Aさんは「お金がない。」と答えました。
タクシー運転手は、警察に通報し、Aさんは駆け付けた兵庫県赤穂警察署に事情を聴かれています。
Aさんの所持金は1000円でした。
(フィクションです)

無賃乗車

はじめから自分がお金を持っていないことがわかっていながら、タクシーに乗車することを「無賃乗車」といいます。
このように、乗車する前から十分な現金やカードなどを所持していないことを認識しているにもかかわらず、タクシーに乗車し、目的地まで送ってもらった場合には、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。

詐欺罪について

詐欺罪は、①人を欺いて、②財物を、③交付させたこと、
または、①人を欺いて、②財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた
場合に成立します。

◇客体◇

詐欺罪の犯行の対象は、(a)他人の占有する財物、そして、(b)財産上の利益です。

(a)他人の占有する財物
「財物」は、有体物および有体物でなくとも物理的に管理可能なものであり、かつ、価値があるものをいいます。
ここでいう価値とは、主観的・感情的価値でも社会観念上刑法的保護に値するものであれば財物といえ、財産的価値は必ずしも必要とはされません。

(b)財産上の利益
「財産上の利益」とは、財物以外のすべての財産上の利益をいい、該当するものとしては、債務の免除、履行期の延長、債務負担の約束、財産的価値のある役務の提供などがあります。

◇行為◇

詐欺罪の実行行為は、「人を欺いて財物を交付させる」または「人を欺いて財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させる」ことです。
(a)欺く行為として、(b)それに基づき相手方が錯誤に陥り、(c)その錯誤によって相手方が処分行為をし、(d)それによって財物の占有が移転し(あるいは、財産上不法の利益を行為者が得、または他人に得させ)、(e)財産的損害が生ずること、が必要となります。

(a)欺く行為
「欺く」行為とは、人を錯誤に陥らせる行為のことです。
「人」を騙されている状態に陥れることが必要とされるので、「機械」を相手とする行為は該当しません。
欺く行為の手段や方法に制限はなく、言語、態度、動作、文書の方法によっても構いません。
代金を支払う資力も意思もないのに、飲食物を注文する行為、宿泊を申込む行為、タクシーに乗車し行き先を告げる行為は、この欺く行為に該当します。

(b)錯誤
「錯誤」とは、観念と真実の不一致をいい、財産的処分行為をするように動機付けられるものであれば足ります。

(c)処分行為
詐欺罪の本質は、欺く行為により、相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて財産的処分行為を行い、財物の交付がなされるという一連の流れにあります。
財産的処分行為が成立するためには、財産を処分する事実と処分する意思が必要となります。
そのため、自己の行動の意味を理解していない幼児や精神障害者を欺き、その財物を取得したとしても、幼児や精神障害者に財産を処分する意思が認められない以上、財産的処分行為がないことになり、その財物の取得は詐欺ではなく窃盗となります。

(d)財物の交付/財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させる
詐欺罪の成立には、相手方の財産的処分行為の結果、行為者に財物の占有が移転すること、あるいは、行為者または一定の第三者が、不法に財産上の利益を取得することが必要となります。

◇主観的要件◇

詐欺罪の成立には、行為者が相手方を欺いて、錯誤に陥らせ、その錯誤に基づく財産的処分行為によって財物を交付させ、自己または第三者が占有を取得すること(財産上の利益を得ること)及びその因果関係を認識・認容すること(=故意)が必要であることに加えて、不法領得の意思が求められます。
不法領得の意思は、条文にはありませんが、判例上認められた要件となっています。
不法領得の意思とは、権利者を排除する意思及び他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用しまたは処分する意思のことをいいます。

以上が詐欺罪が成立する要件となります。
上の事例においても詐欺罪が成立し得るのか否かについて検討してみましょう。

Aさんは、タクシーに乗車し、運転手に行き先を告げており、タクシー運転手はこれによりAさんがタクシー代金を支払う資力と意思があると信じ、目的地を目指して運転しています。
Aさんの所持金は、1000円だったことから、乗車当初からタクシー代を支払う資力も意思もなかったと考えられます。
つまり、Aさんが最初からタクシー代を支払う資力も意思もないのに、それを秘してタクシーに乗車し目的地を告げる行為は、欺く行為であり、それによって錯誤に陥った運転手が目的地に向かって運転している(有償役務の提供という財産的処分行為)ため、2項詐欺罪が成立することになります。

詐欺罪は財産犯であるため、生じた損害を回復させることが最終的な処分にも影響します。
そのため、被害者に対する謝罪及び被害弁償を行い、示談に向けた交渉を行うことが重要です。
被害者との示談交渉は、弁護士を介して行うのが一般的です。
被害者との示談が成立している場合には、不起訴で事件を終了させる可能性を高めることができます。

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