動物の虐待事件:器物損壊罪と動物愛護法違反

動物虐待事件において器物損壊または動物愛護法違反となる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県小野市に住むAさんは、近頃野良犬に自宅の花壇が荒らされるということが頻繁に起こっていたことに業を煮やし、自宅に罠を仕掛け、罠にかかった犬を何度も棒で殴って二度と自宅に近づかないようにしようと考えました。
ある日、一匹に犬が罠にかかっていたので、Aさんはこの犬を複数回棒で殴ったところ、犬に瀕死の怪我を負わせてしまいました。
後日、兵庫県小野警察署の警察官がAさん宅を訪れ、動物虐待事件についてAさんに話を聞いています。
その際、Aさんが殴打した犬が実は野良犬ではなく、Aさん宅から少し離れた民家で飼われていた犬であることが分かりました。
(フィクションです)

動物の虐待事件で問われ得る罪とは?

犬や猫といった動物をペットとして飼われている方も多いと思います。
ペットを家族の一員として接していらっしゃる方がいる一方で、ペットや野生動物に対して虐待行為を行うといった痛ましいケースも少なからず存在しています。
動物に対して虐待を行った場合、犯罪が成立する可能性があるのですが、虐待された動物が他人に飼育されていたペットであるか、野生動物であるかによって成立し得る罪は異なります。

(1)器物損壊罪

動物虐待事件で問われ得る罪には、器物損壊罪というものがあります。
器物損壊罪」という罪を聞くと、あまり動物虐待事件と結びつかない方も多くいらっしゃるように思いますが、虐待された動物が「他人が飼育している」ペットであった場合には、器物損壊罪の客体に該当することになるのです。

器物損壊罪は、刑法261条に規定される罪です。

第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

器物損壊罪の客体は、公用文書等毀棄、私用文書等毀棄、建造物等損壊及び同致死傷に規定するもの以外の他人の物です。
これには、動産・不動産だけでなく、動物も含まれます。

器物損壊罪の行為は、「損壊」または「傷害」することです。
「損壊」は、広く物本来の効用を失わしめる行為を含みます。
例えば、物を物理的に破壊する行為だけでなく、他人の飲食器に放尿する行為についても、飲食器そのものは物理的に破壊されたわけではありませんが、尿が付着した飲食器を洗っても、通常その飲食器を使いたいとは思いませんので、その飲食器の本来の効用を喪失したと言え、「損壊」に当たるとされます。(大判明治42・4・16)
「傷害」は、客体が動物の場合に用いられ、動物を物理的に殺傷するほかにも、本来の効用を失わせる行為も含みます。
例えば、鳥かごを開けて他人の鳥を逃がす行為や、池に飼育されている他人の鯉をいけすの柵をはずして流出させる行為(大判明治44・2・27)が、本来の効用を失わせる行為として「傷害」に該当するとされます。

このように、他人のペットに対して虐待を行った場合には、器物損壊罪が成立すると考えられます。

(2)動物愛護法違反

他人の飼っている動物以外の動物、例えば野生動物や野良犬、野良猫に対して虐待を行った場合には、器物損壊罪ではなく動物愛護法違反が成立する可能性があります。

動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「動物愛護法」といいます。)は、「動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もって人と動物の共生する社会の実現を図ること」を目的とする法律です。

動物愛護法で対象となる動物は、家庭動物、展示動物、産業動物、実験動物等の人の飼養に係る動物です。

動物愛護法第44条1項は、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」と定めています。
ここでいう「愛護動物」とは、
①牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、そしてあひる
②その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
をいいます。

また、動物愛護法第44条2項は、「愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であって疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であって自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行った者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」と定めています。

加えて、動物愛護法第44条3項は、「愛護動物を遺棄した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」と定めています。

動物虐待事件において、器物損壊罪か動物愛護法違反のいずれが成立し得るかについては、虐待の対象となった動物が「他人の所有する動物か否か」という点によります。
そうしたところ、上のケースでは、Aさんが他人のペットを棒で複数回殴打し傷害を負わせていることを考えると、Aさんの行為は器物損壊罪に該当することになります。
しかし、Aさんは、この犬を野良犬だと勘違いしており、他人の所有する動物との認識を欠いていることになります。
つまり、Aさんに器物損壊罪の故意がなく、その認識は愛護動物である犬という認識にとどまることになるので、動物愛護法違反が成立すると考えられます。
ただ、Aさんが殴打した犬に首輪がついていたり、近所で犬が多く飼われているなどの事情がある場合には、他人の飼っている犬という認識が認められることがあり、その場合には器物損壊罪が成立する余地はあります。

動物虐待事件であっても、その内容により問われ得る罪は異なります。

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