カスタマー・ハラスメントで強要事件に発展する場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県赤穂郡上郡町にある飲食店で、食事をしていたAさんは、注文した料理が運ばれてこないことに腹を立て、対応した従業員に罵声を浴びせ始めました。
Aさんの罵声を聞いた店長が、Aさんをなだめようと間に入りましたが、その態度に激昂したAさんは、「この店、どないなっとんねん!客に対してしっかり謝罪せんかい!お前、土下座で謝罪せんかい!誠意みせんと、この店潰したるでな!」と土下座を強要してきました。
困りかねた店長は、兵庫県相生警察署に通報しました。
警察署から駆け付けた警察官は、Aさんに話を聞いています。
(実際の事件に基づいたフィクションです)
カスタマー・ハラスメントで刑事事件に!?
「○○ハラスメント」といった言葉が浸透してきた昨今、カスタマー・ハラスメントで迷惑を被った、対応に困ったといった経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
従業員に対する暴言や土下座強要、ネットへの誹謗中傷の書き込み、客による常識を越えた悪質なクレームや迷惑行為を「カスタマー・ハラスメント」といいます。
店側のミスに対する正当な苦情であれば、店側もそれを真摯に受け止めサービスの向上に努めますが、通常の苦情を越えた悪質なクレームは、時に犯罪行為となる場合もあることに注意が必要です。
上記ケースのように、見せのサービスに対して苦情を訴えることから始まっていますが、Aさんは店長に土下座をして謝罪するよう求めています。
このような土下座強要は、刑法の「強要罪」に当たる可能性があります。
強要罪とは?
強要罪は、刑法第223条に規定されています。
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
強要罪は、相手方またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことをおこなわせ、または権利の行使を妨害することにより成立する罪です。
◇脅迫・暴行◇
「脅迫」は、脅迫罪のものと同様に、恐怖心を生じさせる目的で、相手方またはその親族の生命・身体・自由・財産に対し、害を加えることを告知することです。
「暴行」は、被害者が畏怖し、そのため行動の自由が侵害されるに足りる程度の有形力の行使であることを要し、かつ、それで足りると解されます。
◇強制・妨害◇
暴行・脅迫を手段として、被害者の意思を抑圧し、義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害することを強要といいます。
「義務のないことを行わせ」た例としては、子守の少女に水入りバケツ等を数十分ないし数時間、胸の辺りまたは頭上に支持せしめたもの(大判大8・6・30)、理由なく謝罪文を書かせたもの(大判大15・3・24)があります。
「権利の行使を妨害する」には、告訴を断念させたもの(大判大7・7・20)、競技大会への出場をやめさせたもの(岡地判昭43・4・30)があります。
Aさんは、注文した料理が提供されていないことに対して苦情を申し立てたようですが、それに対応した店長に対して、土下座での謝罪を要求し、しなければ店を潰すと脅しています。
店を潰す、つまり店長の財産に対し害を加えることを告知していますので、「脅迫」を手段としていますね。
そして、「店を潰す」と脅迫し、店長に土下座して謝罪させようとしていますが、いくら店側にサービスにおける落度があったとしても、土下座という行為を行う「義務」までは発生しませんので、土下座をさせることは「義務のないことを行わせ」ることだと言えるでしょう。
実際に店長が土下座をした場合は、強要罪が成立し、Aさんから脅迫され土下座を強要されたが結局土下座はせずに終わったのであれば、強要未遂となります。
強要罪は、未遂も処罰の対象となります。
店の対応に満足できず、苦情を申し立てることはあっても、カスタマー・ハラスメントで刑事時事件に発展してしまうなんてことのないように、客側もきちんとした態度で対応するべきでしょう。
強要事件のように被害者がいる事件においては、最終的な処分が決められる上で、被害者との間で示談が成立しているか否かが重要視されます。
ですので、早期に被害者との示談交渉に着手する必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
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