傷害致死事件の幇助
傷害致死事件の幇助について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県多可郡多可町に住むAさんは、元夫との間にもうけたXくんとYくんを連れて、Bさんと内縁関係となり、同居していました。
しばらくすると、Bさんが、Aさん対して暴力を振るうようになりました。
次第に、XくんやYくんに対しても「しつけ」と称して手を挙げるようになりました。
初めは、AさんはBさんにやめるよう言っていましたが、自分にも暴力を振るわれるのを恐れ、AさんはBさんが子供たちに暴力を振るうのを見て見ぬふりをしていました。
ある日、Bさんは、言うことを聞かないYくんの顔面を何回も殴り、Yくんはそのまま意識を失って倒れてしまいました。
Aさんは、急いで救急車を呼びましたが、搬送先の病院でYくんの死亡が確認されました。
Yくんの身体に複数のあざがあったことから、病院は兵庫県西脇警察署に通報し、Bさんを傷害致死の容疑で逮捕し、Aさんを傷害致死の幇助で逮捕しました。
(実際にあった事件を基にしたフィクションです)
不作為による傷害致死の幇助
親からの虐待により幼い命が失われるという、なんとも悲しい事件が後を絶ちません。
兵庫県において、2018年の1年間に兵庫県警察が摘発したDV事件は778件に上っています。(神戸新聞NEXT 2019年2月4日6時25分掲載記事を参照)
増加の背景には、DV事件が殺人などの重大事件に発展する事例が増えていることから、捜査機関がこれまで以上にDV関連事件に関与するようになったことがあるようです。
つい最近の事件では、千葉県の小学4年生の女児が父親から暴力を受けて死亡した事件がありました。
父親は傷害容疑で逮捕されましたが、母親もまた父親の暴力を黙認していたとして共犯で逮捕されたのには、驚いた方も多かったのではないでしょうか。
過去にも同じようなケースで、内縁の夫の暴力を黙認していた母親に対して、不作為による傷害致死の幇助が認められた事例があります。
「幇助」は、「正犯を幇助」する、つまり、正犯に物的・精神的な支援をすることによって、その実行行為の遂行を促進し、構成要件該当事実の惹起を促進することを意味します。
「正犯を幇助」したか否かについては、犯行道具を正犯に渡すなどの「作為」のみにとどまらず、黙って傍に佇んでいるといった「不作為」の場合についても、その「不作為」が「正犯を幇助」したということであれば、不作為による幇助が成立することになります。
では、どのような「不作為」が「正犯を幇助」すると言えるのかが問題となります。
つまり、正犯の犯行に影響力を与える「不作為」が一体どのようなものか、という点が争点になります。
この点、札幌高裁は、不作為による幇助犯の要件として、
「正犯者の犯罪を防止しなければならない作為義務のある者が、一定の作為によって正犯者の犯罪を防止することが可能であるのに、そのことを認識しながら、右一定の作為をせず、これによって正犯者の犯罪の実行を容易にした」
ことが、作為による幇助犯の場合と同視できると解しています。
「作為義務」について、母親は、死亡した子供の唯一の親権者であり、内縁の夫の暴行を阻止し得る者は母親以外にはおらず、子供の生命の安全の確保は母親のみに依存していたと考えられ、母親は内縁の夫の暴行を阻止すべき作為義務を負っていたと考えられます。
また、母親に要求される「一定の作為」は、内縁の夫の暴力を実力で阻止する行為だけでなく、内縁の夫に暴力を振るわないよう言葉で阻止する行為や警察などに通報する行為なども含まれるとされています。(札幌高裁平成12年3月16日判決)
以上を踏まえて上記ケースを考えてみると、Aさん自身もBさんから暴力を振るわれていたとは言え、AさんはYくんの親権者であり、Yを保護する責任があったにもかかわらず、BさんがYに暴力を振るう様子を見て見ぬふりをしており、阻止しようとBさんを止めたり警察に通報したりせず、結果、その「何もしなかった」ことがBさんがYくんに暴力を振るう行為を促すことになり、Yくんを死亡させてしまったと言え、Aさんは傷害致死の幇助犯となる可能性があるでしょう。
事件の内容により、どのような犯罪が成立し、如何なる責任に問われるかが異なりますので、刑事事件の加害者として警察から取り調べを受けている方、ご家族が逮捕されてお悩みの方は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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