裁判員裁判と取調べの可視化
裁判員裁判と取調べの可視化について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県に住むAさんは、自宅のローン返済に困っていました。
「もっと自由に使えるお金があればいいのに」と思い、自宅のプリンターで1万円札を数枚コピーし、そのうちの2枚を使用してしまいました。
Aさんは、「ばれなければ大丈夫」と思っていましたが、結局、兵庫県たつの警察署に通貨偽造・同行使の容疑で逮捕されました。
警察官からは、Aさんが犯した罪が裁判員裁判対象事件だと聞かされ、Aさんは大変心配しています。
取調べについても、どのように対応すればよいか分からず、刑事事件に強い弁護士に相談することを希望しています。
(フィクションです)
取調べの可視化への動き
裁判員裁判対象の事件や検察が独自に捜査する事件について、身体拘束を受けている被疑者の取調べについて、原則、全過程を録音録画することを義務付けた改正刑事訴訟法が、今年の6月1日に施行されました。
捜査段階における被疑者の取調べは、弁護人の立会いなく、密室で行われており、取調官が被疑者を威圧したり、利益誘導したりといった違法で不当な取調べが行われることがあります。
そのような取調べの中では、被疑者が自己の意に反するような供述を強いられてしまったり、実際に供述した内容と違う供述調書が作成されたり、後の裁判に大きく影響を及ぼし、裁判の長期化や冤罪を生み出す原因となっています。
そこで、逮捕から起訴までの全過程における取調べを可視化し、被疑者などの供述の任意性を証明しようとする動きが起こり、2016年5月に、裁判員裁判対象事件および検察独自捜査事件について、身体拘束を受けている被疑者の取調べの全過程を録音・録画することを義務付ける改正刑事訴訟法が成立するに至りました。
これを受け、全国の警察が2018年度に行った裁判員裁判対象事件の取調べのうち、全過程を録音・録画した割合が、87.6%であったことが警察庁のまとめで明らかになっています。
この取調べの可視化により、黙秘が容易になること、そして、自白の任意性の検証が可能になるというメリットがある一方、その全過程が記録されるため、被疑者の不合理な供述や不合理な弁解がそのまま記録されること、供述態度がそのまま裁判員に伝わるなど、注意すべき点もあります。
また、被疑者自身も、記録されているということに強いプレッシャーを感じ、精神的な支援も必要となるでしょう。
これらの点を踏まえ、取調べが記録されている場合にも、取調べ対応について刑事事件に精通する弁護士から適切なアドバイスを受けることは非常に重要と言えるでしょう。
裁判員裁判対象事件
市民が刑事裁判に「裁判員」として参加し、被告人の有罪・無罪について、有罪である場合にはその量刑について、裁判官と一緒に決める制度を「裁判員制度」といいます。
平成21年5月21日から当該制度が始まり、はや10年が経過しました。
裁判員裁判の対象となるのは、
①死刑又は無期の懲役もしくは禁錮にあたる罪に関する事件
②①を除いた法定合議事件(裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件)であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関する事件
です。
具体的に対象事件をあげると、
強盗致傷、殺人、現住建造物放火、強盗致死傷、強盗・強制性交等、傷害致死、強制わいせつ致死傷、通貨偽造、偽造通貨行使、危険運転致死、保護責任者遺棄致死
などです。
上記ケースのように、自宅のプリンターで1万円札をコピーして使用したといった犯罪も、裁判員裁判対象事件となります。
ですので、起訴されれば、裁判員裁判となりますので、それに対応した弁護活動を行う必要があります。
裁判員裁判の場合には、公判期日の前に、公判前整理手続がとられ、裁判官・検察官・弁護士の3者で、事件の争点や、重要な事実が整理されます。
また、実際の審理では、裁判員の方にも分かりやすい方法で被告人側の主張を展開していかなければなりません。
このように、裁判員裁判は通常の刑事裁判と異なる点がありますので、裁判員裁判には刑事事件に強い弁護士に弁護を依頼されるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件を専門に取り扱っており、裁判員裁判を経験した弁護士も所属しております。
ご家族が裁判員裁判対象の事件を起こしてしまいお困りの方は、弊所の弁護士にご相談ください。