自転車に火をつけた場合、如何なる罪が成立し得るのか、放火罪および器物損壊罪の違いを説明しながら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県神崎郡福崎町の集合住宅で自転車が焼けた火事で、兵庫県福崎警察署は、Aさんを器物損壊の疑いで逮捕しました。
逮捕容疑は、〇月△日午後6時頃、集合住宅の共有スペースに停めてあった自転車の前かごに火をつけて壊したということです。
(実際の事件を基にしたフィクションです)
自転車に火をつけた場合、何罪に問われるの?
上のケースでは、Aさんは集合住宅の共有スペースに停めてあった自転車の前かごに火をつけて壊したとの疑いがかけられています。
自転車の前かごに「火をつけて」壊したのだから、「放火罪」が成立するように思えますが、警察は器物損壊の容疑でAさんを逮捕しています。
なぜ放火罪ではなく器物損壊罪が適用されたのでしょうか。
放火罪について
まずは、放火罪についてみていきたいと思います。
刑法は「放火及び失火の罪」として、第108条から第118条まで規定しています。
そのうち、第108条は現住建造物等放火罪、第109条は非現住建造物等放火罪、そして第110条は建造物等以外放火罪について規定しています。
集合住宅の共有スペースに停めてあった自転車の前かごに火をつけた場合、抵触する可能性があるのは第110条の「建造物等以外放火罪」です。
第百十条 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
◇客体◇
本罪の客体は、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑」や「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物・艦船・鉱坑」以外のすべての物です。
建造物等には当たらない建造物や自動車・バイクなどへの放火に適用されることが多いようです。
自転車の前かごも、本罪の客体に当たるでしょう。
◇行為◇
本罪の実行行為は、火を放って目的物を焼損することです。
「火を放つ」とは、目的物の焼損の原因力を与える行為をいい、媒介物を利用する場合も含まれます。
◇公共の危険◇
本罪が成立するためには、実行行為の結果、「公共の危険」が発生することが必要となります。
「公共の危険」の発生は、放火行為によって一般不特定の多数人をして、所定の目的物に延焼しその生命・身体・財産に対し危害を感ぜしめるにつき相当の理由がある状態をいいます。(大判明44・4・24)
ただ、必ずしも108条および109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく、不特定または多数の人の生命・身体・建造物等以外の財産に対しする危険も含まれるとされます。(最決平15・4・14)
◇故意◇
客体に放火して焼損することの認識に加えて、「公共の危険」の発生についての認識を要するかいなかについて、学説には争いがありますが、判例は不要との立場をとっています。(最判昭60・3・28)
さて、建造物等以外放火罪が成立するポイントとして、「公共の危険」の発生の有無があります。
公共の危険が発生しなかった場合、客体が他人所有のものであり、焼損が器物損壊罪における「損壊」といえる程度に達していれば、「器物損壊罪」が成立することになります。
過去の判例では、具体的状況のもとで、人家等との距離、人家等の構造や材質、火力の程度、被害物件の状況、可燃物の有無や天候などといった周囲の状況を考慮し、一般人の蓋然性判断を基準に危険発生の有無が判断されています。
上のケースは、集合住宅の共有スペースに停めてあった自転車の前かごを放火していますが、当該客体に放火することで、住居スペースなどにも燃え移り不特定多数の人や物に損害を与えるおそれがあったと判断されれば「建造物等以外放火罪」が成立する可能性があります。
一方、そのような「公共の危険」を生じさせたとまでは言えないと判断されれば、「器物損壊罪」が成立することになります。
「建造物等以外放火罪」の法定刑は、1年以上10年以下の懲役であるのに対し、「器物損壊罪」は3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料と大きく異なります。
自身の行った行為が如何なる罪に当たるのか、一度刑事事件に強い弁護士にご相談されてはいかがでしょう。
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