薬物事件における保釈について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
麻薬取締法違反の容疑で逮捕されたAさんは、逮捕後に勾留となり兵庫県赤穂警察署に勾留されています。
勾留決定と共に、接見禁止が付されており、Aさんは家族と面会することはできません。
勾留延長の満期日に、Aさんは麻薬取締法違反の罪で神戸地方検察庁姫路支部に起訴されました。
Aさんは、弁護人に保釈請求をしてほしいと話しています。
(フィクションです)
薬物事件で逮捕されたら
麻薬取締法違反を含めた薬物事件で逮捕された場合、その後勾留となる可能性は非常に高いでしょう。
勾留とは、被疑者および被告人の身柄を拘束する裁判ならびにその執行のことをいいます。
起訴前の勾留を「被疑者勾留」、起訴後の勾留を「被告人勾留」と呼びます。
薬物事件の場合、薬物の入手先や譲渡先など、被疑者本人だけでなく複数人が事件に関与しているため、釈放されることにより被疑者・被告人が関係者と接触し、罪証隠滅を図るおそれがあると判断されることが多くなっています。
そのため、捜査が終了する起訴前の段階では、釈放される可能性はそう高くありません。
しかし、起訴後であれば保釈制度を利用することにより釈放される可能性はあります。
保釈制度について
「保釈」というのは、一定額の保釈保証金を納付することにより、勾留されている被告人を暫定的に釈放する制度です。
保釈には、次の3種類があります。
1.権利保釈(必要的保釈)
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
裁判所は、保釈の請求があったときは、原則として保釈を許可しなければなりません。
例外として、刑事訴訟法第89条の1号~6号の除外事由がある場合には、請求を却下することができます。
2.裁量保釈(任意的保釈)
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
裁判所は、権利保釈の除外事由がある場合であっても、適当と認めるときは、職権で保釈を許可することができます。
3.義務的保釈
第九十一条 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
裁判所は、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、請求により又は職権で、保釈を許可しなければなりません。
上記ケースにおいて、Aさんは麻薬取締法違反の罪で起訴されています。
まずは、権利保釈が認められるか検討しましょう。
麻薬取締法違反の罪の法定刑は、規制薬物の種類及び違反形態により異なりますが、ここでは所持についてみていきましょう。
ジアセチルモルヒネ等の所持は、10年以下の懲役、ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の所持は7年以下の懲役、向精神薬の所持は3年以下の懲役です。
「短期一年以上の懲役」には該当しないので、除外事由1号には当たりません。
Aさんに前科がないとすれば、2号も該当しません。
しかし、問題は3号です。
Aさんが1件のみで起訴されたとしても、同じ犯罪を複数回(2回以上)繰り返していた場合には「常習」犯とみなされます。
また、法定刑が「長期3年以上の懲役」の罪となっていますので、上限が3年以上である上の所持罪も含まれますので、3号に該当する可能性はあります。
また、4号の「逃亡・罪証隠滅のおそれ」についても、余罪が複数ある場合や共犯者が複数いる場合など捜査が終了していなければ、罪証隠滅のおそれが高いと判断される可能性があります。
権利保釈が認められない場合であっても、裁量保釈が認められる可能性もあります。
形式的には逃亡・罪証隠滅のおそれが残る場合であっても、その程度が低く、身体拘束によって被る被告人の不利益の程度等を考慮して、裁判所の裁量によって保釈が許可されるのです。
権利保釈と同時に裁量保釈を請求することが出来ますので、弁護人に頼んで両方の保釈を請求してもらうのがよいでしょう。
裁判所に保釈が許可され、保釈保証金を納付すれば、被告人は釈放されることになります。
保釈保証金の額は、犯罪の性質や被告人の資力にもよりますが、150~200万円が相場となっています。
出頭を拒んだり、逃亡したりしなければ保釈保証金は、裁判終了後に戻ってきます。
ご家族が薬物事件で逮捕・勾留され、長期の身体拘束を受けてお困りであれば、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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