覚醒剤所持事件で執行猶予を獲得できるの?一部執行猶予について~①~

覚醒剤所持事件で起訴された方の執行猶予獲得と、一部執行猶予について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

参考事件
  
兵庫県加古川市に住むAさんは、去年の春ごろまで覚醒剤所持の容疑で刑務所に2年間服役していました。
実はAさんは、出所後も覚醒剤を使用しており、出所直後からこれまでずっと覚醒剤を使用し続けています。
そんな中、車を運転中に交通事故を起こしてしまったAさんは、このままだと警察に覚醒剤の使用が発覚してしまうと思い、車を放置して事故現場から逃走してしまいました。
事故処理の際に、Aさんが乗り捨てた車の中から覚醒剤が発見されたようで、事故を起こして2週間ほどしてAさんは、覚醒剤所持の容疑で、兵庫県加古川警察署逮捕されました。
Aさんは起訴されることを覚悟しており、執行猶予が獲得できないまでも一部だけでも執行猶予を獲得できないものかと期待しています。
(フィクションです)

執行猶予

執行猶予とは、裁判官が犯罪を認め有罪を認定したものの、言い渡した刑事罰(懲役刑、罰金刑)の執行を一定期間猶予することをいいます。
執行猶予には「全部執行猶予」「一部執行猶予」の2種類があります。

全部執行猶予

全部執行猶予を受けるための要件は、刑法に規定されており、その内容は下記のとおりです。

刑法第25条1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる
第1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

この内容を要約すると、執行猶予を受けるためには
①3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
②上記1号、あるいは2号に該当すること
③(執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること

ことが必要となります。

Aさんの事件を検討

1号の「前に禁錮以上の刑に処せられた」とは、判決前に、禁錮以上の刑の言渡しを受け、その刑が確定していることを意味します。
Aさんは懲役2年の実刑判決を受け刑務所に服役している歴があるので、1号には当たりません。
続いて2号に当たるか検討します。
「執行を終わった日」とは刑の服役期間が満了した日をいい、Aさんの場合、去年の8月に刑務所を満期出所していますので、2号の要件も満たしていません。

つまりAさんは、法律的にも全部執行猶予を得ることは不可能でしょう。

~明日のコラムでは一部執行猶予について解説します。~

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