ネット掲示板への書き込みで名誉毀損となる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
会社員のAさんは、元勤務先のV社についての誹謗中傷の書き込みを約1000回行ったとして兵庫県加西警察署に名誉毀損の容疑で逮捕されました。
Aさんは、「V社は欠陥品を売りつけている。」「V社は社員のパワハラ問題をうやむやにしているブラック企業だ。」などという内容の書き込みについて認めていますが、「すべて事実を書いただけだ。」と供述しています。
逮捕の連絡を受けたAさんの妻は、どう対応してよいか分からず慌ててネットで対応してくれる弁護士を探しています。
(フィクションです)
ネット掲示板への書き込みで刑事事件に?
ネット掲示板への書き込みやSNSへの投稿内容が問題となることがあります。
時には、それが刑事事件へと発展してしまうこともあります。
今回は、ネット掲示板への書き込みにより名誉毀損に問われるケースについて説明していきます。
名誉毀損罪について
刑法第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
◇客体◇
名誉毀損罪の客体は、「人の名誉」です。
「人」は、自然人のほかに、法人、法人格のない団体も含まれます。
「名誉」とは、人に対する社会一般の評価を意味し、人の経済的な支払能力や支払意思に対する社会的評価は含まれません。
人の真価とは異なる評価である虚名も「名誉」にあたり、摘示した事実が真実であっても、真実性の証明による免責が認められないのであれば処罰の対象となります。
◇行為◇
名誉毀損罪の実行行為は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する」ことです。
「公然」とは、不特定多数の者が認識し得る状態をいいます。
ここでいう「不特定」とは、相手方が特殊の関係によって限定された者でない場合をいいます。
また、「多数」とは、単に複数では足りず、相当の員数であることが必要とされます。
では、特定少数人に対して名誉毀損表現を行った場合にも「公然」と言えるかどうかが問題となりますが、これについて判例は、適示の直接の相手方が特定少数人であったとしても、伝播して不特定多数の者が認識し得る可能性を含む場合には「公然性」が認められるとの立場をとっています。(大判大8・4・18、最判昭34・5・7)
摘示される「事実」については、それ自体が人の社会的評価を下げるような具体的事実であることが必要です。
「事実」は、人の社会的評価に関する事実であればよく、被害者が適示された事実に置いて明示的に特定されていない場合でも、他の事情を含めて総合的に判断して特定することが可能であれば足りるとされます。
「事実」が真実であるか否か、公知であるか否か、過去のものか否かは問いません。
「摘示」とは、具体的に人の社会的評価を下げさせるに足りる事実を告げることをいいます。
その手段や方法に制限はなく、口頭であっても文書であっても構いません。
「名誉を棄損する」ことは、社会的評価を害するおそれのある状態を発生させればよく、実際に名誉が侵害されたことまで求められません。
「公然と事実を摘示」した場合、通常人の名誉は毀損されたものといえ、既遂に達したものとされます。
◇故意◇
名誉毀損罪が成立するためには、他人の社会的評価を害し得る事実を不特定または多数人が認識し得る形で摘示していることについての認識が必要です。
◇真実性の証明による免責◇
名誉毀損罪は、真実である事実を摘示した場合にも成立し得るため、言論の自由の保障との関係で問題が生じることになります。
そのため、個人の名誉の保護と表現の自由の調和を図るため、真実性の証明による免責を認める規定が刑法には設けられています。
免責が認められる場合は、名誉棄損行為が、
(a)公共の利害に関する事実に係り、
(b)その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合で、
(c)摘示した事実が真実であることの証明があったとき、
に認められます。
公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実については、「公共の利害に関する事実」とみなされ、公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に関して、事実の真否を判断し、事実であることの証明があった場合には、免責が認められます。
(a)事実の公共性
「公共の利害に関する」というのは、一般多数人の利害に関することを意味します。
「公共の利害に関する」といえるためには、その事実を公表することが公共の利益の推進にとって必要な限度のものでなければならず、かつ、その事実が公共の利害に関するものであることが一定程度明白でなければなりません。
私人の私生活上の事実についてであっても、その者が携わる社会的活動の性質や影響力の程度などによっては、社会的活動に対する批判・強化の資料として公共性が認められることもあります。
(b)目的の公共性
「専ら」との文言が規定されていますが、主たる動機が公益を図ることであれば足りるとされます。
(c)真実性の証明
証明の立証は被告人にあります。
証明の対象は、摘示された事実で、その主要・重要な部分について真実であるとの証明がなされれば足ります。
証明の方法・程度について、合理的な疑いをいれない程度の証明が必要だとする下級審裁判例もありますが、被告人は強力な証拠収集手段を持たないため、そこまでの証明を要求するのは酷であり、証明の優越の程度で足りるとする見解が有力となっています。
さて、上記ケースのように企業の不祥事をネットで糾弾した場合にも名誉毀損罪が成立するのでしょうか。
Aさんの書き込んだ内容が真実だとして、これを公にするためにネットの掲示板に書き込んだとしたのであれば、発言内容が真実であり批判が公益目的と認められれば、真実性の証明による免責となる可能性もあります。
ただ、書き込んだ内容を立証する元ネタが噂や信頼性に乏しい情報源であった場合は事情が異なります。
しかし、この場合でも、Aさんが書き込んだ内容が真実であると誤信した相当の理由があると判断されれば、名誉毀損の意図はなかったとして名誉毀損罪が成立しない可能性もあります。
どのような場合に名誉毀損罪が成立するかについて、刑事事件に詳しい弁護士に相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
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