置き忘れた物を取得したケースにおける窃盗と占有離脱物横領の線引きについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県神戸市中央区にある百貨店に買い物に来ていたVさんは、一通り買い物をした後、休憩しようと百貨店内のベンチに腰を下ろしました。
しばらくして、買い忘れた物を思い出したVさんは、5階から地下1階へと降りましたが、約10分後、商品を買おうとして、財布が入ったカバンを5階のベンチに置き忘れたことに気が付き、急いで5階に戻りました。
しかし、Vさんのカバンは見当たらず、百貨店にも相談しましたが、届けられていませんでした。
Vさんは、兵庫県生田警察署に被害届を出しました。
数日後、兵庫県生田警察署は、防犯カメラの映像から被疑者を特定し、Aさんを逮捕しました。
Aさんは、「忘れ物だと思って届けようとして持っていったが、届け出るのを忘れていた。」と供述しています。
(フィクションです)
置き忘れた物の取得は何罪?
上記ケースのように、ある人がカバンなどを置き忘れ、置き忘れたことに気が付いて元の場所に戻った時にカバンはなくなっていたということは、残念ながら少なくありません。
このような場合、カバンを盗った人にはどのような罪が成立するのでしょうか。
まず、初めに窃盗罪について考えてみましょう。
(1)窃盗罪
窃盗罪は、刑法235条に規定される罪です。
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪は、
①他人の財物を
②窃取した
場合に成立する罪です。
◇客体◇
窃盗罪の客体は、「他人の財物」です。
「他人の財物」とは、「他人の占有する財物」を言います。
つまり、窃取時に、他人の占有下にある物のことです。
「占有」の概念についは、人が財物を事実上支配し、管理する状態をいうと解されます。
占有は、占有の事実(客観的要素)と占有の意思(主観的事実)で構成されます。
占有の事実については、占有者が財物を事実上支配している状態をいい、事実上の支配の有無の客観的な基準として、財物自体の特性、占有者の支配の意思の強弱、距離などの客観的物理的な支配関係の強弱が考慮されます。
置き忘れに関するケースの具体例に言及すると、被害者が身辺約30センチの箇所にカメラを置いたが、バスの列が進んだためカメラを置いたまま前進したが、カメラを置き忘れたことに気付き置いた場所まで戻ったが既にカメラが持ち去られた事件で、列が動き始めてからその場所に引き返すまでの時間が約5分、カメラを置いた場所と引き返した地点との距離は約19.58メートルにすぎないような場合は、未だ被害者の占有を離れたものとはいえないとした判例があります。(最判昭32.11.8)
占有の意思とは、財物を事実上支配する意欲・意思をいいます。
◇行為◇
「窃取」とは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
◇主観的要件◇
窃盗罪の成立には、①財物が他人の占有に属していること、および、②その占有を排除して財物を自己または第三者の占有に移すことを認識すること、つまり、「故意」が必要となります。
加えて、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用、処分する意思」である不法領得の意思も必要となります。
次に、占有離脱物横領罪についてみていきます。
(2)占有離脱物横領罪
占有離脱物横領罪は、刑法254条に規定されています。
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
占有離脱物横領罪は、
①遺失物、漂流物、その他占有を離れた他人の物を
②横領したこと
により成立します。
◇客体◇
「遺失物」とは、占有者の意思によらずにその占有を離れ、いまだ誰の占有にも属していないものをいいます。
「漂流物」は、水中にある遺失物のことです。
「占有の離れた」というのは、占有者の意思に基づかないでその占有を離れたことです。
◇行為◇
「横領」とは、委託物につき不法領得の意思を実現するすべての行為をいいます。
さて、カバンなどを置き忘れた場合、通常その持ち主は短時間が置き忘れたことに気が付くことが多いでしょう。
ですので、他人のバックを持ち去った者は、バックの持ち主の占有を奪ってバックを窃取したとして窃盗となることが多いです。
しかし、バックの持ち主の占有が認められるか否かが微妙な場合、窃盗ではなく占有離脱物横領罪が成立する可能性があります。
窃盗ではなく、占有離脱物横領罪が成立する場合の判断の分かれ目は、犯人が他人の財物を入手した時、その財物に他人の占有が認められるか否か、です。
ここでいう「占有」は、持ち主が物を客観的に支配しているだけでなく、持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態も含みます。
持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻すことができる状態かどうかは、持ち主の物に対する支配の事実や占有の意思の観点から判断されます。
具体的に言えば、支配の事実の観点からは、持ち主がカバンを置き忘れてから気が付くまでの時間的、場所的接近性などが重要な要素となります。
また、占有の意思の観点からは、持ち主が物の存在していた場所をどれぐらい認識していたかなどが考慮されます。
この点、上記ケースについて考えると、Vさんはカバンのことを失念しており、その時間は10分程度ではありますが、置き忘れた場所は百貨店の5階で思い出した場所が地下であるので、気が付いた時点で置き忘れた場所にすぐに戻って取り戻せることができる時間的、場所的関係にあったとは言い難く、支配の事実の観点から、Vさんは、カバンの支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態にあったとは言えないでしょう。
そのため、カバンの占有はVさんから離れ、営業中の不特定多数の者が出入りできる百貨店のベンチに置かれたカバンは遺失物と認められ、Aさんは、遺失物であるカバンを持ち去って自分の物としているので、占有物離脱物横領罪に問われ得るものと考えられます。
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