債務不履行と詐欺罪
債務不履行と詐欺罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
Aさんは、会社の経営がうまくいかず、知り合いから会社の運営資金200万円を借りていました。
しかし、その借金を返すことができないため、知人のVさんから運営資金200万円を借り、経営が軌道に乗れば必ず返済することを約束しました。
その後、Vさんが借金の返済を迫っても、Aさんは、「必ず返す。あともう少し資金があれば、経営がうまくいくんだ。」と更なる借り入れを申し入れる始末でした。
そのうち、VさんはAさんと連絡がとれなくなってしまいました。
いつまで経っても返済する様子がないことに業を煮やしたVさんは、Aさんに対して、債務不履行による損害賠償の請求を裁判所に申し立てました。
それでも何ら連絡のないことに腹を立てたVさんは、「Aさんは元々返すつもりがなく借りたのではないか?」と疑いはじめ、兵庫県宍粟警察署に詐欺の疑いで被害届を提出することにしました。
(フィクションです)
借金を踏み倒すと…
「会社の経営がうまくいかない…」、「生活が苦しい…」等の理由で貸金業者や知人等からお金の借り入れをされた経験がある方も少なくないと思います。
借りる際には、「きちんと借りたお金を返す」と約束するのですが、いつまで経っても貸したお金を返してもらえないというケースも残念ながらあります。
借金を踏み倒した場合、債権者は債務者に対してどのような手段を講じ得るのでしょうか。
1.債務不履行による債務履行請求・損害賠償請求~民事事件~
お金の貸し借りの約束は、債権者と債務者との私人間の約束です。
当該約束内容には、お金を借りた者(債務者)はお金を貸した者(債権者)にいついつまでに借りたお金を返すことが含まれています。
この約束により、債務者には、借りたお金を返す「義務」が生じるわけですが、借りたお金を返さない行為は、その約束に違反する行為、つまり、借金を返済する義務を怠ることとなります。
故意または過失によって自分の債務(この場合の債務は、お金を借りた者がお金を貸した者に借りたお金を返すという義務)を履行(実行)しないことを「債務不履行」といいます。
そして、債務を履行しない場合には、法的な責任=債務不履行責任が債務者に生じます。
債務不履行責任が生じた場合、債権者は債務者に対して、完全な履行を請求すること、契約に基づく債務の場合には契約を解除すること、債務不履行から生じた損害賠償を請求することができます。
よって、お金を貸したがいつまでたっても返済されない場合には、債権者が貸金返金請求(債務履行請求)訴訟や債務不履行により生じた損害賠償請求訴訟を裁判所に起こすことが予想されます。
2.詐欺罪による被害届等の提出~刑事事件~
先述しましたが、借金の貸し借りというのは私人間のやりとりですので、私人間の消費貸借契約から生じた紛争は民事事件として取り扱われます。
しかし、「最初から返すつもりがないにもかかわらず、相手方に返すと嘘をついてお金を借りた」場合に限っては、詐欺罪として刑事事件へ発展する、ということがあります。
詐欺罪は、「人を欺いて財物または財産上不法の利益を詐取する」犯罪です。
詐欺罪の成立には、①欺く行為をして、②それに基づき相手方が錯誤に陥り、③その錯誤によって相手方が処分行為をし、④それによって財物の占有が移転または利益が移転するといった一連の関係性がなければなりません。
借金返済が問題となる場合、①の欺く行為があったかあったのか、つまり、相手方を騙す行為があったのかどうかがポイントとなります。
つまり、返済する意思がない、返済する能力がないにもかかわらず、あるかのように装い、相手方を騙してお金を借りたのであれば、欺罔行為に当たることになります。
実際にはそのような人の心の中を立証することは困難です。
しかし、その時の金銭状況を示す客観的な証拠があれば、返済する意思も能力もなかったことを立証することは可能です。
借金の返済踏み倒しで刑事事件に発展する可能性も0ではありません。
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