殺害目的で包丁所持~殺人予備罪~
殺害目的での包丁所持(殺人予備罪)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
Aさんは、交際相手を巡ってVさんと揉めていました。
Aさんは、Vさんの態度に激怒し、Vさんを殺害することを決意しました。
Aさんは、ホームセンターで文化包丁を購入し、兵庫県川辺郡猪名川町のVさん宅付近の路上でVさんを待ち伏せしていました。
すると、付近の住民がAさんを不審に思い、兵庫県川西警察署に通報しました。
現場に駆け付けた警察官から職務質問を受けた際、警察官がAさんが文化包丁を持っていることに気づき、Aさんを銃刀法違反容疑で現行犯逮捕しました。
兵庫県川西警察署での取調べでは、AさんはVさんを殺害するために文化包丁を所持していたと供述しており、Aさんは殺人予備容疑でも取調べを受けることになりました。
(フィクションです)
殺人予備罪について
殺人罪は、刑法第192条に次のように規定されています。
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
殺人罪の構成要件(法律により犯罪として決められた行為類型)は、「人を殺した」行為です。
人が死亡することにより構成要件的結果が惹起され、殺人罪という犯罪が成立します。
それでは、人が結果として死に至らなかった場合は罪に問われないのでしょうか。
第二百三条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
上記のように、殺人罪に関して、人を殺そうとしたけれど、結果人を死亡させるに至らなかった場合(未遂)でも、未遂犯として処罰の対象となります。
現行刑法は、未遂を一般的に処罰の対象とするのではなく、処罰の必要を認めた犯罪について、個別に処罰規定を設けています。
未遂とは、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」ことです。(刑法第43条)
ですので、未遂というためには「犯罪の実行に着手した」ことが必要となります。
この実行の着手の有無をどのような基準で判断すべきかについて、判例は、既遂犯の構成要件的結果を生じさせる危険性が認められる行為への着手の時点で実行の着手が認められるとする立場にたっています。
例えば、クロロホルムを吸引させて被害者を失神させ(第1行為)、失神した被害者を車ごと海に転落させて溺死させる(第2行為)事案において、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、被告人らが第1行為を開始した時点ですでに殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるとして、第1行為を開始した時点で殺人未遂が成立するとしています。(最決平16・3・22)
上のケースでは、AさんはVさんを殺害する目的で凶器である包丁を購入した上で、Vさん宅付近で待ち伏せしていました。
Aさんの行為は、殺人の実行に着手したと言えるでしょうか。
凶器を所持して待ち伏せする行為だけでは、「Vさんの死」という法益侵害の現実的危険が発生していたとは言えないでしょう。
であれば、そのような未遂にも至っていない場合は何ら罪に問われないのでしょうか。
刑法は、未遂以前の犯行の「予備」についても、殺人罪や強盗罪など極めて重い犯罪について例外的に処罰の対象としています。
第二百一条 第百九十九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
殺人予備罪は、殺人罪を犯す目的で、殺人の実行を可能にし、または容易にする準備行為です。
判例では、人を殺害する目的で刺身包丁を携えて被害者宅に侵入し、被害者の姿を探し求めて屋内を通り歩いた行為、他人から殺人の用に供するための青酸カリを調達するよう依頼を受け、これを入手してその他人に手交する行為、殺人を意図して被害者等の日常通行する能動の道端に毒入りジュースを置く行為は、殺人予備罪に該当するとしています。
となれば、上記ケースで、殺意を持って包丁を手に被害者宅付近で待ち伏せしていた行為は、殺人予備罪に当たると考えることができるでしょう。
逮捕されたAさんは、身体拘束されたまま連日捜査機関からの取調べを受けることになります。
外界から隔離された環境での取調べで、身体的にも精神的にも疲労し、自己に不利な供述がとられてしまう可能性もあります。
ご家族が刑事事件を起こし逮捕されてお困りであれば、刑事事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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