Archive for the ‘暴力事件’ Category

責任能力を争う弁護士

2021-09-05

責任能力について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県加古郡播磨町で、知人を刃物で刺し、怪我をさせたとして、兵庫県加古川警察署はAさんを殺人未遂の容疑で逮捕しました。
Aさんの家族から接見依頼を受けた刑事事件専門弁護士は、Aさんが総合失調症にり患していることを聞き、責任能力の有無についても慎重に検討すべきだと考えています。
(フィクションです。)

犯罪が成立する場合

犯罪は、「構成要件に該当する、違法で有責な行為」であると理解されています。
つまり、犯罪とは、人の行為であって、①構成要件に該当すること、②違法であること、③有責であること、という3つの要件すべてを満たしている場合に成立するものなのです。

①構成要件というのは、法律により犯罪と定められた行為類型のことです。
殺人罪であれば、「人を殺した」行為が構成要件です。
しかし、単に、あなたが人を殺したということだけでは、殺人罪は未だ成立してはいません。
犯罪であると言えるためには、その行為(殺人罪であれば、人を殺した行為)が②違法でなければなりません。
基本的には、法律で犯罪として定められた行為は、その行為を禁止するために犯罪として定めているのですから、違法と言えますが、正当防衛などのように例外的な事情が存在する場合には、構成要件に該当する行為であっても、違法性が認められないことになります。
そして、構成要件に該当する行為であって、かつ、その行為が違法であると言える場合であっても、更に、行為者に責任があることが認められなければ犯罪は成立しません。
罪を犯し、有罪となった者には、刑罰が科されますが、刑罰は人の自由を奪うものですので、それを正当化するために、構成要件に該当する違法な行為を行った者が非難に値するものであることが求められるのです。
責任の有無を判断する際に考慮される要素としては、故意・過失、期待可能性、そして、責任能力があります。

責任能力とは

行為者の精神に障害がある場合などで有責な行為をする能力が備わっていあに場合には、その行為者を法的に非難することはできません。
行為者に責任があると言えるために、その行為者に必要とされる能力を「責任能力」といいます。
刑法は、心神喪失者については、責任能力を欠く者(責任無能力者)として、処罰しないことを定めており、心身耗弱者については、責任能力は存在するものの、著しく限定されているため、責任減少を認めて刑の必要的減軽を定めています。

心神喪失とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力またはその弁識に従って行動を制御する能力が全くない状態をいいます。
心身耗弱とは、精神の障害によりそのような能力が著しく減退した状態をいいます。

責任能力は、「精神障害」という生物学的要素と、「弁識能力」や「制御能力」という心理学的要素に基づいて、完全責任能力、限定責任能力、責任無能力が判断されます。
「精神障害」には、総合失調症、中毒性精神病、知的障害、精神病質、その他の精神疾患があります。
このような精神障害を行為者が患っていた場合、精神障害の影響で、弁識能力または制御能力がない、あるいは著しく減退していたかどうかが検討されます。
弁識能力は、問題となる行為の違法性を認識することができる能力のことで、制御能力とは、違法と認識している行為を思い留まることができる能力のことをいいます。
ある行為が悪いことだと理解していたとしても、一定の状況においてその行為が悪いことだとは理解できないのであれば、弁識能力が否定されることになります。
また、ある行為が悪いことだと分かっており、犯行時に合理的に行動することができたとしても、その犯行を思い留まらせることができなければ制御能力が否定されるのです。
責任能力の有無や程度については、行為者が精神障害を患っていたことだけでなく、犯行当時の病状(精神障害の種類と程度)、犯行前の生活状態、犯行の動機・原因、犯行の手段・態様(計画性や作為性の有無など)犯行後の行動・態度等を総合して判断されます。

そのため、責任能力が問題となる事件では、弁護人は、被疑者・被告人の犯行時の病状だけでなく、犯行前後の諸事情について検討していくことになります。

刑事事件において責任能力が争われるケースは少なくありません。
ご家族が刑事事件を起こし、責任能力に疑問がある、争え得るのかとお悩みであれば、一度刑事事件に精通する弁護士に相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
刑事事件・少年事件を起こし対応にお困りの方は、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

強要事件で逮捕されたら

2021-08-29

強要事件で逮捕された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
兵庫県朝来市に住むAさんは、泣きながら帰宅した小学生の娘が、「Vくんにからかわれた。」と言ったことで激高し、帰宅途中だったVくんに対して怒鳴り散らし、胸倉をつかむなどの暴行を加え、土下座をするよう強要しました。
Vちゃんの話を聞いたVくんの母親は、すぐに兵庫県南但馬警察署に相談したことで事件が発覚しました。
同警察署の署員は、Aさん宅を訪れ、話を聞いたところ、Vくんの土下座させたことは認めていますが、「あいつが悪いことしたから、しつけでやっただけ。」と容疑を一部否認しています。
警察署は、Aさんを暴行および強要の疑いで逮捕しました。
(フィクションです)

強要罪について

強要罪は、暴行または脅迫を手段として、一定の作為もしくは不作為を強いる罪で、刑法第223条に次のように規定されています。

第223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。

◇客体◇

強要罪の客体、つまり、犯行の対象は、「人」です。
ここでいう「人」というのは、自然人の意味であって、法人は含みません。

◇行為◇

強要罪の行為とは、「相手方またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことをおこなわせ、または権利の行使を妨害する」ことです。

①脅迫
相手方またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加えることを相手方に告知する行為を「脅迫」といいます。
どの程度の脅迫であれば、強要罪における「脅迫」に当たるのかといえば、害悪の告知が「一般人を畏怖させるに足りる程度」のものでなければなりません。
実際に相手方が畏怖したかどうかは問題ではなく、一般人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知がされていればよいのです。
害悪の内容それ自体は、必ずしも犯罪である必要はなく、違法なものでなくともよいとされています。

Aさんは、Vくんに対してAさんの娘をからかったことについて、説教という建前で怒鳴り散らしているようですが、その内容如何によっては「脅迫」に当たりかねません。
例えば、成人男性に大声で「しばくぞ」、「どつくぞ」、「いてまうぞ」などといった暴言を吐かれたとしたら、普通の人、ましてや小学生なら恐れおののきますよね。

②暴行
「暴行」というのは、人に対して加えられた有形力の行使のことです。
有形力の行使は、必ずしも直接人の身体に対して加えられる必要はありません。
強要罪における「暴行」に当たるには、相手方が畏怖し、そのため行動の自由が侵害されるに足りる程度の有形力の行使であることが求められます。

Aさんが、Vくんを力づくで動けないようにし、土下座させたのであれば、暴行を手段とする強要となるでしょう。

◇結果◇

行為の結果、「人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害する」ことが必要です。
「義務のないことを行わせ」るというのは、行為者において何ら権利・権能がなく、相手方に何ら義務がないのに、相手方に作為・不作為または忍容を余儀なくさせることをいいます。
「権利の行使を妨害する」とは、相手方が法律上許されている作為・不作為に出ることを妨害することです。

VくんはAさんの娘をからかったとされていますが、それが本当であるならば、VくんはAさんの娘に謝るのが筋だとは思いますが、土下座をすることはVくんに課された義務などではないため、そのような行為を強いる行為は、人に義務のないことを行わせるものと言えるでしょう。

Aさんは、しつけでやったと言っていますが、Aさんの行為は決してしつけとして正当化されるものではありません。

強要事件で逮捕された場合

Aさんは、強要などの容疑で逮捕されてしまいました。
そのような場合、事件を穏便に解決するためにはどのような活動をする必要があるのでしょうか。

1.身体拘束からの解放

逮捕後、勾留に付されてしまうと、さらに長い期間身体拘束を受けることになります。
身体拘束が長引けば、その分会社に行くことはできませんし、事件のことが明るみになる、解雇されてしまう可能性も高まります。
そのような事態を避けるためにも、できる限り早期に釈放となることが望まれます。
そのため、逮捕されたら、いち早く弁護士に相談し、身柄解放活動に着手してもらうことは重要です。
弁護士は、勾留前に検察官や裁判官に働きかけ、勾留を回避したり、勾留後には勾留に対する不服申し立てを行い、勾留の取り消しで釈放となるよう動きます。

2.被害者との示談交渉

強要事件では被害者がいるため、被害者への対応如何が最終的な処分結果に大きく影響することになります。
被害者への謝罪や被害弁償、示談が成立している場合には、検察官が不起訴処分で事件を終了させたり、起訴されたとしても執行猶予が付くなど被疑者・被告人に有利な事情として働きます。
ただ、被害者が被疑者・被告人に対して恐怖や怒りを感じているため、被害者が自身の連絡先を加害者側に教えなかったり、仮に連絡先を入手できたとしても、当事者間の交渉は感情的になり難航する可能性が高いため、第三者である弁護士を介して行うのがよいでしょう。

ご家族が強要事件を起こし逮捕されてお困りであれば、今すぐ弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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【お客様の声】業務妨害事件 環境調整で保護観察処分

2021-08-04

■事件概要
 ご依頼者様の息子様(10代、学生、補導歴等なし)が、爆破予告が記載されたメモを拾ったかのように装い駅員にそのメモを届け、駅員らの業務を妨害したとされる事件。

■事件経過と弁護活動
 ご依頼者様から、息子様が逮捕されたとの連絡を受け、担当弁護士はすぐに接見に向かいました。担当弁護士は、息子様と接見を行い、被疑事実に間違いはないものの、その動機から息子様が抱える問題が複雑であること、そしてその問題を解決していくためにはご家族や学校などの関係者と協力していく必要が不可欠であると認識しました。そこで、ご依頼者様に、息子様の更生には環境調整が最も重要であることをお話ししたところ、ご依頼者様自身もその点について異論はなく、今後は環境調整を中心に対応することになりました。

 息子様との接見を重ねるなかで、担当弁護士は、息子様が今回の事件としっかりと向き合うよう支援しました。事件を起こしたことでどのような結果が生じたのか、どうして事件を起こしてしまったのか、その原因をどうしたら解消することができるのか、といった点についてじっくりと話し合うことで、息子様自身が客観的に自身を見つめ直す機会を持ち、問題点を冷静に分析することができるようになりました。
 また、今回の事件の背景には、息子様とご家族との不安定な関係性が存在していたため、担当弁護士はご依頼者様や他のご家族の方とも密に連絡をとり、ご家族に家庭内の問題を改めて認識していただき、改善に向けての努力を重ねました。そして、息子様の学校とも連絡をとり、息子様が引き続き学校で学業に励むことができるよう先生方との話し合いを重ねました。

 担当弁護士の熱心な環境調整活動を通じて、息子様の更生には社会内で様々な人と関わりながら指導・教育を受けることが何よりも重要であることを裁判官に理解してもらい、審判では保護観察処分が言い渡されました。

喧嘩闘争における正当防衛

2021-06-16

喧嘩闘争における正当防衛について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県兵庫警察署は、「路上で喧嘩している人たちがいる。一人は腹を刺されて血を流している。」との目撃者からの通報を受けました。
現場に駆け付けた警察官は、現場にいたAを傷害の容疑で逮捕しました。
しかし、Aは「相手が手を出してきて、喧嘩になった。いったんやめたのに、相手が一方的に殴る蹴るしてくるから、自分の身を守るために護身用のナイフを出したら相手に刺さった。」と正当防衛を主張しています。
Aは、接見にやってきた弁護士に、自身の行為が正当防衛に当たるのか聞いています。
(フィクションです。)

正当防衛とは

犯罪は、「構成要件に該当する、違法で有責な行為」をいうと一般的に理解されています。
構成要件というのは、犯罪の類型のことで、法律で、こういう行為を犯罪とします、と定められている行為のことです。
例えば、殺人罪であれば、「人を殺した」行為であることが、殺人罪の構成要件となります。
問題となる行為が、構成要件に該当する場合でも、それが違法でなければ犯罪は成立しません。
犯罪として法律に定められた行為は、その行為を禁止するために規定されているので、本来違法であることが想定されているものです。
ただ、例外的な事情がある場合にのみ、その違法性を否定し、犯罪は成立しないこととされています。
そのような例外的な事情を「違法性阻却事由」といいます。

違法性阻却事由として刑法に規定されているものとしては、「正当行為」、「正当防衛」、「緊急避難」があります。

正当防衛

刑法第36条1項は、

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

と規定しています。
これが「正当防衛」と呼ばれる違法性阻却事由です。

①急迫不正の侵害

「侵害」とは、権利を侵害する危険をもたらすものをいいます。
「不正な侵害」とは、違法である侵害を意味します。
この「不正な侵害」は「切迫」したものでなければなりません。
判例によれば、「刑法36条にいう『急迫』とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることを意味」するとしています。(最判昭46・11・16)
この点、急迫性が認められるかどうかの判断において、被侵害者がその侵害を予期していたような場合には、急迫性が認められるかどうかが問題となります。
判例は、侵害が予期されるものであっても、被侵害者に積極的加害意思がなければ急迫性が認められるとするとの立場に立っています。

②権利の防衛

正当防衛は、急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために認められます。
正当防衛は「防衛するための行為」でなければならず、攻撃を受けたのに乗じて積極的に相手方を加害する場合は、防衛の意思を欠き、正当防衛は成立しません。

③やむを得ずした行為

正当防衛は、防衛するために「やむを得ずにした行為」でなければなりません。
判例は、正当防衛の成立要件として、必要性、相当性の両方を必要とするとの立場をとっています。
つまり、必要性については、必ずしもその行為が唯一の方法であることを要せず、また、厳格な法益の権衡も要求されないが、少なくとも相手に最小の損害を与える方法を選ぶことを要するとしています。
また、相当性については、「急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味するのであって、反撃行為が上記の限度を超えず、したがって侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとして法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないと解すべきである。」として、どのような結果が生じたかよりも、どのような手段がとられたのかという観点から相当性について判断されています。(最判昭44・12・4)

さて、喧嘩において正当防衛は成立するのでしょうか。
基本的には、双方が攻撃や防御を繰り返す連続的行為となった場合は、喧嘩両成敗として正当防衛は成立しません。
ただ、喧嘩闘争状況であれば常に正当防衛の成立が否定されるわけではなく、攻撃や防御を繰り返す連続的行為が崩れた場合、例えば、最初は素手で喧嘩をしたいたものの、突然相手が刃物を持ち出して攻撃してきたので、それに反撃した場合や、喧嘩がいったん収まったにもかかわらず、相手がなおも攻撃を続けてきたことに対して反撃した場合などは、正当防衛が成立する余地があるでしょう。

Aは、正当防衛を主張していますが、喧嘩全体の流れの中でのAの反撃行為が正当防衛に当たるかどうかを検討しなければなりません。
事案によっても異なりますので、刑事事件に強い弁護士に早めに相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
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殺人未遂で逮捕

2021-06-06

殺人未遂について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県高砂市のマンションに住むAさんは、マンション前の路上で、近くに住むVさんと口論になりました。
Vさんは、「埒が明かないので、警察を呼ぶ。」言い、携帯電話で通報し始めました。
Aさんは、警察を呼ぶVさんに腹が立ち、マンションの自分の部屋に戻り、ベランダから路上に立っているVさんの頭上めがけて、ダンベルを投げつけました。
幸い、Vさんにダンベルは当たらず、Vさんは無傷でした。
Vさんは、通報を受けて駆け付けた兵庫県高砂警察署の警察官にAさんの行為を報告したところ、警察官はAさんを殺人未遂の容疑で現行犯逮捕しました。
Aさんは、「Vさんに腹が立ったからやったが、結局Vさんには当たってないし、なんで殺人未遂なんや。」と不満を述べています。
(フィクションです。)

Aさんは、マンションのベランダから下にいたVさんを狙ってダンベルを投げつけた行為について、殺人未遂に問われています。
そこで、今回は、殺人未遂罪とはどのような場合に成立する罪であるかについて説明していきます。

殺人未遂罪

殺人未遂は、その名の通り、「殺人」が「未遂」に終わったものを意味します。
殺人」は、みなさんご存じの通り、「人を殺す」という罪ですね。

犯罪が成立するのは、構成要件(殺人の場合は、人を殺すこと)に該当する場合です。
より細かく言えば、犯罪の成立には、法律の条文に規定された要件に該当し(=構成要件該当性)、社会的に許されず(=違法性)、かつ、社会的に非難される(有責性)行為であることが求められますが、基本的に構成要件に該当する行為は、違法性及び有責性を一応有しているものと考えられるため、犯罪が成立しているかどうかを検討するときには、まず、構成要件に該当するか否かを検討してから、特に違法性や有責性を否定する特別な事情があるか否かを検討することになります。
構成要件に該当しているか否かは、条文に規定された実行行為があり、その行為により結果が発生していること、そして、実行行為にはその行為を認識、認容して行動に出るという内心、つまり、故意があるかどうかという要素に基づいて検討されます。
実行行為に基づき結果が発生した場合を、既遂といいます。
一方、犯罪の実行に着手したが、結果が発生しなかった場合を未遂といい、法律で未遂犯に処罰規定がある場合には、未遂罪として処罰される可能性があります。
殺人には未遂犯がありますので、人を殺そうとして実行行為を行ったけれども、人を死亡させるに至らなかった場合には、殺人未遂罪が適用され、処罰の対象となります。

殺人未遂罪が成立するには、犯罪の実行に着手していなければなりません。
実行の着手時期については、結果が発生する危険性が認められる行為への着手の時点とされており、判例では、クロロホルムを吸引させて被害者を失神させ、その失神状態を利用して被害者を自動車ごと海中に転落させて溺死させる事案においては、すでに最初の行為を開始した段階で、殺人未遂が成立するとしています。(最決平16・3・22)

Aさんのマンションのベランダから下にいたVさんを狙ってダンベルを投げつける行為は、Vさんを死亡させる危険性が認められる行為と言えます。
高い場所からダンベルを投げつけて、それが人の頭に当たったら、その人が死んでしまう可能性は高いですからね。
実際に、Aさんはその行為を行っていますので、犯罪の実行に着手していることになります。
また、故意についてですが、Aさんが「Vさんを殺してしまえ!」と確信的な殺意を有していなくても、鉄の塊であるダンベルを投げつければVさんに当たって死なせてしまうかもしれないことは通常予測することができますので、「Vさんに当たったら死んでしまうかもしれない。」という程度の認識があったことは認められるため、未必の故意があったと言えるでしょう。
Aさんは、犯罪の実行に着手はしたものの、たまたまダンベルがVさんに当たらなかったので、Vさんが死亡するようなことはありませんでしたが、結果が発生しなかったのは、Aさんの意思によるものではなく、それ以外の理由により、Aさんの実行行為に基づく結果が生じなかっただけであり、未遂犯のうち「障害未遂」に当たり、任意的に刑が減軽されます。

殺人未遂は、一歩間違えれば、人の命を奪っていたかもしれず、決して軽い罪とは言えません。
しかし、情状により刑が減軽される可能性もあるので、適切な弁護活動により、少しでも寛大な処分となるよう早期に対応する必要があります。

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少年院送致処分の回避

2021-04-18

少年院送致処分の回避を目指す活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県神崎郡神河町に住むAくんは、以前に傷害事件を起こし、現在は保護観察中でしたが、知人に暴力を振るい怪我をさせたとして、兵庫県福崎警察署に傷害の容疑で逮捕されました。
同種の前歴があるため、今度は少年院送致となるのではないかとAくんの両親は心配しています。
(フィクションです。)

少年院送致

事件の送致を受けた家庭裁判所は、調査官に少年の要保護性に関する調査を命じ、調査結果を踏まえて少年の処遇を決定します。
審判では、終局処分として、不処分、保護処分、検察官送致のいずれかがなされることがほとんどです。
終局処分に至る前に、中間処分として試験観察となることもあります。
終局処分である保護処分には、①保護観察処分、②児童自立支援施設・児童養護施設送致、③少年院送致の3種類があります。

少年院送致は、少年を少年院に強制的に収容する保護処分のことです。
収容先の少年院は、保護処分の執行を受ける者、及び少年院において懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者を収容し、これらの者に対して矯正教育その他の必要な処遇を行う施設です。
家庭裁判所は、少年院送致の決定をする場合、少年の年齢や心身の発達の程度に応じて、送致すべき少年院の種類を決めます。

少年院には、次の4つの種類があります。
(ア)第1種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満の者を対象とする少年院です。
(イ)第2種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満の者を対象とする少年院です。
(ウ)第3種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満の者を収容する少年院です。
(エ)第4種少年院
少年院において懲役等の刑の執行を受ける者を対象とした少年院です。

少年院に収容することができるのは、原則20歳までですが、少年院送致決定のあった日から1年を経過していないときは、その日から起算して1年に限り収容を継続することができます。

少年院送致処分の回避を目指す活動

少年院送致は、閉鎖施設において少年の自由を拘束するという点で、保護処分の中で最も強力な処分と言えるでしょう。
少年院送致が見込まれる事案では、少年院送致を回避する、つまり、試験観察を経ての保護観察処分を目指すことになります。

家庭裁判所は、保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもって、相当の期間、少年を調査官の観察に振ることができます。
これを試験観察といいます。
試験観察は、少年に対する終局処分を一定期間留保し、その期間の少年の行動等を調査官の観察に付すために行われる中間処分です。
試験観察期間中に、少年が目を見張るような変化を遂げて要保護性が解消された結果、社会内処遇での保護処分で十分であると認められれば、少年院送致ではなく保護観察処分となる可能性があります。

いきなりの少年院送致決定を回避するためには、少年の具体的な状況を考えた場合、少年院送致という終局処分を直ちにするよりも、引き続き、調査官による調査や付添人を含む関係者による働きかけや環境調整を行うほうが、少年の立ち直りが見込め、少年の更生にとって適した終局処分を決めることができる旨を積極的に主張していくことが必要となります。
このような活動は、少年事件に精通する弁護士に相談・依頼されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、少年事件を数多く取り扱う法律事務所です。
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常習傷害罪(暴処法違反)で逮捕

2021-03-31

常習傷害罪(暴処法違反)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県美方郡新温泉町の居酒屋で、他の客と喧嘩になり、止めに入った店長の顔を殴ったとして、Aさんは、通報を受けて駆け付けた兵庫県美方警察署の警察官に傷害の疑いで現行犯逮捕されました。
Aさんは、過去にも酒に酔った上での暴行罪、傷害罪、脅迫罪、器物損壊罪で処罰されており、警察は常習性についても調べるようです。
(フィクションです。)

傷害と常習傷害

暴力を振るい相手方に怪我を負わせた場合、通常、傷害罪が成立すると考えられます。
しかし、加害者に暴行や傷害の前科が多数ある場合には、単なる傷害罪ではなく常習傷害罪が成立する可能性があります。
今回は、それぞれの罪について、いかなる場合に成立し得るのかについて説明していきます。

1.傷害罪

刑法第204条
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

◇犯行の対象◇
傷害罪の客体は「人」であり、行為者本人を除く「身体」を有する自然人です。
法人やその他の団体は本罪の客体とはなりません。

◇行為◇
傷害罪の実行行為は、「傷害する」ことです。
「傷害」の意義については、判例は、人の生理機能に障害を与えること、又は、人の健康状態を不良に変更させることとしています。(最判昭24・7・7など)
傷害の方法については、暴行による方法と暴行によらない方法とがありますが、暴行又は暴行によらない方法による行為と障害結果との間には因果関係が必要となります。
暴行による傷害の場合、人の身体に対する有形力の行使によるものであって、相手方に対して殴る蹴るなどが典型です。
他方、暴行によらない傷害の場合については、性病に羅患している者が強制性交行為によって性病を感染させる場合(最判昭27・6・6)や、自宅から隣家に向けてラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を鳴らし続け、精神的ストレスから睡眠障害等を負わせた場合(最決平17・3・29)などに傷害が認められています。

◇故意◇
傷害罪は故意犯であり、傷害の結果を意図して暴行を加え、それにより傷害の結果が発生した場合に傷害罪が適用されることに議論の余地はありません。
しかし、故意に暴行を加え、その結果、意図しない結果として傷害の結果が発生した場合には故意が認められないとして傷害罪は成立しないことになるのかが問題となります。
この点、傷害罪は故意犯であるとともに、暴行罪の結果的加重犯でもあるため、傷害罪の故意は暴行の認識があれば足りると理解されています。(最判昭25・11・9)

2.常習傷害罪

暴力行為等処罰ニ関スル法律(以下、「暴処法」といいます。)第1条の3は、常習として傷害罪、暴行罪、脅迫罪又は器物損壊罪を犯した者が、人を傷害させた場合は、1年以上15年以下の懲役に処し、傷害に至らずに暴行にとどまった場合は、3月以上5年以下の懲役に処すという常習傷害罪を規定しています。
常習傷害罪が成立する場合には、傷害罪は成立しません。
そのため、常習性の有無によって、成立する犯罪が異なります。

常習傷害罪が成立するためには、
①暴力行為の常習性があり、
かつ、
②本件の行為が暴力行為の常習性の発現として行われたもの
でなければなりません。
これらの要件を判断する際には、行為者の性格や素行、行為の動機・種類・態様、各種暴力行為の反復回数などが考慮されます。
性格や素行の面で粗暴傾向が強く、行為の動機・種類・態様に繰り返しが多い場合には、上の要件は認定されやすくなります。
これらを考慮する際には、前科・前歴が重要な判断資料となります。
本件における行為の動機・種類・態様が前科・前歴と共通している場合には、暴力行為の常習性、その発言としての本件行為が認められるでしょう。

常習性の有無によって、傷害罪にとどまるのか、常習傷害罪となるのかが違ってきますので、傷害等の前科があり常習性の有無が問題となる場合には、一度弁護士に相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
ご家族が傷害事件で逮捕されてお困りであれば、弊所の弁護士にご相談ください。
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傷害事件、示談で不起訴へ

2021-03-14

傷害事件において示談不起訴となる活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~事例~
兵庫県三木市の居酒屋で会社の同僚と飲んでいた会社員のAさんは、ひょんなことから隣席の男性と口論になりました。
Aさんは、お酒が入っていたこともあり、気が大きくなり、男性からの挑発を受けて拳で男性の顔を殴ってしまいました。
Aさんは会計を済ませ店を出ましたが、後日、兵庫県三木警察署から連絡があり、「△△居酒屋での喧嘩で、相手方さんから被害届が出ています。一度、お話を聞かせてもらえますか。」と言われました。
困ったAさんは、刑事事件に強い弁護士に相談の予約を入れました。
(フィクションです)

暴行を加えて、相手方に怪我などの傷害を負わせる傷害事件を起こすのは、日頃から気性の荒い人間だけとは限りません。
酒の影響で正常な判断が出来ずに手を出してしまうケースも少なくありません。

傷害罪とは

傷害罪は、刑法204条に規定されている犯罪です。

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

傷害罪は、他人の身体に対する侵害を内容とする犯罪です。

◇客体◇

傷害罪の客体は、「人の身体」です。
行為者自身の身体の傷害(=自傷)は、罪とはなりません。

◇行為◇

傷害罪の実行行為は、「人の身体を傷害する」ことです。
傷害」の概念についてですが、判例は、「人の生理的機能に障害を加えること」であるとしています。
傷害として認められたものとしては、
・怒号等の嫌がらせにより、不安・抑うつ状態に陥れること。(名古屋地裁判決、平成6年1月18日)
・性病であることを秘して、被害者女性の性器に自己の性器を押し当て、被害者に性病を感染させたこと。(最高裁判決、昭和27年6月6日)
・キスマークをつけること。(東京高裁判決、昭和46年2月2日)
・皮膚の表皮を剥離すること。(大審院判決、大正11年12月16日)
・暴行、脅迫により外傷後ストレス障害(PTSD)を惹起すること。(最高裁決定平成24年7月24日)
このように、殴る蹴るといった典型的な有形力の行使により、相手方に怪我を負わせる以外にも、傷害に当たる場合があるのです。
傷害の方法については、有形無形を問いません。

◇故意◇

傷害の故意については、傷害罪が暴行罪の結果的加重犯であることから、傷害罪の故意は暴行の認識があれば足りるとするのが判例です。(最高裁判決、昭和25年11月9日)

以上の要件を満たしており、かつ、責任能力も認められ、違法性も阻却されないのであれば、傷害罪が成立することになります。

傷害事件で被疑者となってしまったら

傷害事件で被疑者となった場合、最終的に起訴するかしないかは検察官の判断に委ねられます。
検察官が起訴し有罪となれば、前科が付くことになります。
しかし、検察官が起訴しないとの決定をすれば、被疑者として捜査された前歴は残りますが、有罪判決を言い渡されてはいないので前科が付くことはありません。
検察官が起訴しないとする処分(不起訴処分)には、その理由に応じて様々ですが、不起訴処分となるものの多くが「起訴猶予」です。
起訴猶予は、有罪であることを証明するには十分の証拠があるものの、被疑者の境遇や犯罪の軽重、犯罪後の状況等を鑑みて、検察官の裁量によって不起訴とする場合のことです。
被害者がいる事件では、被害者との示談が成立しているか否かも起訴・不起訴を決める際に考慮される重要な要素です。
傷害罪は、被害者等の告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪ではありませんが、被害者との示談が成立し、許しを得ている場合には、不起訴となる可能性を高めることができます。
ですので、傷害事件で被疑者となった場合には、被害者との示談成立に向けて動くことが大切です。
しかし、加害者と被害者が直接示談交渉をすることはあまりお勧めしません。
なぜなら、捜査機関が被害者の個人情報を加害者に教えなかったり、被害者が加害者に直接連絡をとることを拒否することがあるため、連絡すらできない場合が多いことや、事件の当事者が直接話合うと感情的になり交渉が難航することがよくあるからです。
弁護士を介してであれば、捜査機関を通じて被害者と連絡をとることや、冷静な態度で示談交渉に挑み、被害者に対して示談のメリット・デメリットを丁寧に説明した上で、当事者両方が納得のいく形での示談成立に向けて粘り強く交渉することが期待できます。

このような活動は、刑事事件に強い弁護士にお任せください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、傷害事件をはじめとした刑事事件・少年事件を専門に取り合う法律事務所です。
傷害事件を起こし対応にお困りの方は、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

少年鑑別所収容の回避

2020-07-19

少年鑑別所収容の回避に向けた活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県神戸市垂水区に住む中学生3年生のAさんは、友人Bさんと共謀し、知人のVさんに暴行を加え、所持金3000円を奪ったとして、兵庫県垂水警察署に逮捕されました。
逮捕後、10日間の勾留となったAさんですが、もうすぐ定期試験が控えています。
高校受験を控えたAさんは、家庭裁判所送致後に観護措置がとられ少年鑑別所に収容されれば、定期試験が受けられなくなり、成績に影響するのではないかと心配しています。
(フィクションです。)

少年鑑別所とはどんなところ?

少年鑑別所は、以下のことを行う施設です。
(1)鑑別対象者の鑑別
(2)観護措置等によって収容される者らに対する必要な観護処遇
(3)非行及び犯罪の防止に関する援助

(1)鑑別

少年鑑別所が行う「鑑別」というのは、「医学、心理学、社会学その他の専門的知識及び技術に基づき、鑑別対象者について、その非行又は犯罪に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、その者の処遇に資する適切な指針を示すもの」のことです。
少年鑑別所は、様々な観点から、少年がなぜ犯罪・非行に手を染めてしまったのか、その原因について明らかにし、どうすれば再び犯罪・非行に走ることなく更生することができるのかについて見解を示します。

鑑別のために調査すべき事項は、「その者の性格、経歴、心身の状況及び発達の程度、非行の状況、家庭環境並びに交友関係、在所中の生活及び行動の状況」等に関するものです。

少年鑑別所の観護対象者となるのは、以下の者です。
①家庭裁判所、地方更生保護委員会、保護観察所の長、児童自立支援施設の長、児童養護施設の長、少年院の長又は刑事施設の長から鑑別を求められた次の者。
・保護処分または少年法18条2項の措置に係る事件の調査または審判を受ける者。
・保護処分の執行を受ける者。
・懲役または禁錮の刑の執行を受ける20歳未満の者。
②家庭裁判所から次の決定を受けた者
・少年院送致の保護処分。
・少年院仮退院者であって少年院に戻して収容する旨の決定。

(2)観護処遇

少年鑑別所は、観護措置が執られて少年鑑別所に収容される者その他法令の規定により少年鑑別所に収容すべきこととされる者及び収容することができることとされる者を収容し、これらの者に対し必要な観護処遇を行います。

観護措置は、家庭裁判所が少年の調査、審判を行うために、当該少年の心情の安定を図りながら、少年の心身を保護してその安全を図る措置です。
観護措置には、家庭裁判所の調査官の観護に付する在宅観護と、少年鑑別所に送致する収容観護の2種類がありますが、実務上、前者はほとんどとられておらず、観護措置という場合は後者を指すものとされています。

観護措置の要件について、少年法では「審判を行うため必要があるとき」との規定があるのみですが、一般的には、以下の要件を満たす必要があるとされます。
①審判条件があること。
②少年が非行を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること。
③審判を行う蓋然性があること。
④観護措置の必要性が認めあれること。

④の観護措置の必要性については、具体的には、以下のいずれかの事由があるときに認められます。
(a)調査、審判および決定の執行を円滑かつ確実に行うために、少年の身体を確保する必要があること。
(b)緊急的に少年の保護が必要であること。
(c)少年を収容して心身鑑別をする必要があること。

観護措置の期間は、法律上は2週間を超えることはできず、特に継続の必要があるときに1回に限り更新することができるとされていますが、実務上はほとんどの事件で更新がなされているので、通常は4週間となります。

また、家庭裁判所送致前である少年の被疑事件において、検察官は、勾留請求に代えて裁判官に対し観護措置の請求をすることができます。
これを「勾留に代わる観護措置」といいます。
この措置がとられた場合、請求の日から10日間、少年鑑別所に収容されます。
その後、家庭裁判所に送致され、通常はそのまま観護措置がとられ、更に1か月ほど少年鑑別所に収容されることとなります。

少年鑑別所の収容を避けるためには

観護措置がとられると、1か月ほど少年鑑別所に収容されることになります。
その間、少年は学校や職場に行くことはできませんので、少年の社会復帰を妨げてしまうことにもなりかねません。
そこで、観護措置の必要性がない場合や観護措置を避ける必要がある場合には、観護措置を避けるための活動を行う必要があります。

家庭裁判所は、事件が係属している間、いつでも観護措置をとることができます。
しかし、捜査段階から逮捕・勾留されている少年の場合、家庭裁判所に少年が到着してから24時間以内に観護措置をとらなければならないため、送致された日に観護措置がとられることがあります。

そこで、弁護士は、家庭裁判所に送致されるタイミングを見計らい、開廷裁判所に付添人届を提出し、少年について観護措置の要件・必要性がないことや、観護措置を避けるべき事情があることを述べた意見書を提出します。
裁判官や調査官との面談を行い、観護措置の要件・必要性がないこと、観護措置を避けるべき理由を提出した意見書を補充する形でしっかりと主張します。
そうすることで、家庭裁判所に送られてくる書類からでは分からない少年の事情を裁判官や調査官に伝えることができ、観護措置をとるべきか否かを判断する際に考慮してもらえる可能性があります。

捜査段階で身体拘束を受けていない少年が、家庭裁判所に送致された後に観護措置がとられることもあります。
そのため、家庭裁判所に送致される時に、観護措置をとらないよう家庭裁判所に働きかけることも必要でしょう。

このような活動は、少年事件に精通する弁護士に任せるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、少年事件を数多く取り扱う法律事務所です。
お子様が家庭裁判所に送致され、少年鑑別所に収容されるのではとお困りの方は、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。

近隣トラブルで刑事事件に

2020-04-06

近隣トラブル刑事事件に発展する場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県宝塚市に住むVさん家族は、1年前に引っ越してきました。
道を挟んだ向かいにあるAさんとも、良好な関係にありました。
しかし、子供がまだ小さいVさんの妻が、町内のイベントの準備に積極的に参加しないことに腹を立てたAさんは、Vさん宅の玄関前で、嫌味を言うようになりました。
最初は嫌味だけでしたが、だんだんとVさん家族の人格を否定するような内容の暴言を吐くようになり、Vさんの妻は怖くて家から出るのもためらうようになりました。
さすがに困ったVさんは、市役所に相談しました。
市役所からAさんに連絡が行った後も、Aさんの嫌がらせ行為は続き、とうとうVさん家族は兵庫県宝塚警察署に相談することにしました。
(フィクションです)

近隣トラブルから刑事事件に発展するのか?

刑事事件というと、殺人や傷害、性犯罪に窃盗などといった犯罪をイメージされる方が多いのではないでしょうか。
刑事事件となると、警察が動き出して大事になる。
犯人は逮捕され、裁判にかけられて刑務所に入る。
そのようなイメージからすると、近隣トラブルのような揉め事には警察は介入しないのではないか。

実は、そうでもありません。
一昔前までは、家庭内トラブルや近隣トラブルといった問題には、警察は積極的に介入しようとはしなかったと言われていますが、トラブルの内容によっては刑事事件として立件することもあり、隣人トラブルから刑事事件に発展するケースは少なくありません。
近隣トラブルで多いのが、隣人からの執拗な嫌がらせ行為です。
何らかの出来事がきっかけとなり、隣人からの嫌がらせを受けているケースが多く、嫌がらせを回避するために荷物をまとめて出ていくなんてことが気軽にはできるものではありませんので、被害者は長年に渡って嫌がらせ行為に悩まされ続けていることがよく見受けられます。

このような隣人からの嫌がらせ行為は、迷惑防止条例違反に該当する可能性があります。

迷惑防止条例は、各都道府県により制定されているもので、兵庫県には、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」と題する条例があります。
この条例の第10条の2は、嫌がらせ行為の禁止について定めています。

正当な理由なく、特定の者に対して、執拗に又は反復して「嫌がらせ行為」をすることを禁止しています。
ここでいう「嫌がらせ行為には、次の8つの行為が含まれます。

①つきまとい・待ち伏せ・見張り・押し掛け
人の後を尾行する行為、行く先々で待ち伏せをする行為、自宅や勤務先などで見張る行為、自宅や勤務先などに押し掛ける行為。

②監視していると告げる行為
帰宅直後に「おかえり」などと電話やメールをする行為、その日の行動や服装などを電話やメールで告げる行為。

③面会などの要求
面会などの義務のないことを行うよう要求する行為。

④乱暴な言動
著しく粗野・乱暴な言動をすること。

⑤無言電話、電子メールなどの送付
無言電話や意味不明な声を上げるだけの電話、拒否しているにもかかわらず電話・メールなどを送る行為。

⑥汚物などの送付
汚物、動物の死体、その他の著しく不快・嫌悪の情を催させるような物を送付したり、その知り得る状態に置くこと。

⑦名誉を害する行為
名誉を傷つけるような内容を告げたり、文書などを届けたりする行為、名誉を傷つけるような文章をネットに掲載して伝えようとする行為など。

⑧性的羞恥心を害する行為
性的羞恥心を害する事項を告げたり、その知り得る状態に置いたり、その性的羞恥心を害する文書・図画その他の物を送付、またはその知り得る状態に置くこと。

上のケースでは、AさんがVさん宅の玄関前で暴言を吐くという行為を繰り返しています。
Aさんの行為は、④の嫌がらせ行為、内容によっては、⑦や⑧にも当たる可能性があります。
④の「著しく粗野又は乱暴な言動」というのは、場所柄や一般に期待される礼儀をわきまえないぶしつけな言動や動作または不当にあらあらしい言語動作であって、刑法の暴行や脅迫などに至らない程度のものをいいます。
大声で「バカ」「くそ」などの粗野な言葉を浴びせる行為、家の前で大声を出したり、車のクラクションをうるさく鳴らす行為等が該当します。

このような「嫌がらせ行為」は、ストーカー規制法における「つきまとい等」と類似していますが、「つきまとい等」は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」をもって行われる必要があります。
迷惑防止条例の「嫌がらせ行為」は、そのような恋愛感情目的がなく、特定の人に対して、執拗・反復して問題の行為を行うことで足ります。

嫌がらせ行為を行い迷惑防止条例に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

このように、迷惑防止条例違反に当たる場合、近隣トラブルから刑事事件に発展する可能性はあります。
迷惑防止条例違反で刑事事件の被疑者となり対応にお困りであれば、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
無料法律相談初回接見サービスのご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881までご連絡ください。

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