軽犯罪法違反と暴行罪
軽犯罪法違反と暴行罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県揖保郡太子町にあるスーパーマーケットで買い物を終えて出てきたVさんは、肩に何かが当たったことに気が付きました。
肩に付着している物が生卵であることが分かり、どうやらVさんの頭上から落ちてきたのではないかと推測し、すぐにの交番に通報しました。
兵庫県たつの警察署は、スーパーマーケットが入っている高層マンションに住むAさんを軽犯罪法違反(危険物投注)の容疑で書類送検しました。
Aさんは、就職活動がうまくいかずイライラして生卵を自室のベランダから投げたと供述しています。
(実際の事件を基にしたフィクションです)
軽犯罪法違反と暴行罪
上記ケースでは、Aさんは軽犯罪法違反(危険物投注)に問われています。
まずは、当該罪がどのようなものなのか、条文を見ていきたいとおもいます。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十一 相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者
投注発射の罪は、
①相当の注意をしないで
②他人の身体又は物件に
③害を及ぼすおそれのある場所に
④物を投げ、注ぎ、又は発射
する犯罪です。
①相当の注意をしないで
通常人に一般的に要求される程度の注意を払わないことを意味します。
要求されている注意義務の内容を認識しながら殊更に必要とされる行為をしない場合とそのような注意を怠ってしまった場合との両方を含みます。
②他人の身体・物件
「他人」というのは、犯人以外の者です。
「他人の物件」という場合には、自然人に限らず、法人及びその他の団体、官公省なども含まれます。
③害を及ぼすおそれのある場所に
「害」とは、強要・脅迫の被害にまで至らなくとも、衣類や身体に水をかけることによって与える害のように、一般人が迷惑と思う程度の害悪を意味します。
「害を及ぼすおそれ」とは、物を投げたりすることにより、直接その物が他人の身体又は物件に当たるおそれだけを意味するのではなく、他人がその物を踏み、滑って転ぶなどのように、他人自身の行為を伴うことによって及ぼすおそれのような間接的なものも含まれます。
④物を投げ、注ぎ、発射する
ここでいう「物」とは、個体・液体・気体のすべてを含みますが、電気や光といったエネルギーは含まれません。
一般人が判断して、直接・間接に他人の身体・物件に害を及ぼす危険性のあるものをいいます、
「投げる」という行為には、物に力を加えて飛ばすことだけを意味するのではなく、高所から落としたり、転がしたりすることも含まれます。
ここで、「投げた生卵が被害者に当たっているのだから、暴行罪でもいいんじゃない?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
軽犯罪法違反と暴行罪の違いは何なのでしょうか。
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
暴行罪の構成要件は、
①暴行を加えたが、
②人が傷害するに至らなかった
ことです。
ここでいう「暴行」とは、不法な有形力の行使が人の身体に対して加えられる場合をいいます。
判例では、狭い市場半の部屋で在室中の被害者を脅かすために、日本刀の抜き身を振り回す行為や、音・光・電流等を行使する場合も「暴行」に含まれるとしています。
加えて、暴行罪の成立には、人の身体に対して有形力を行使することの認識が必要となります。
これは、未必的認識で足りるとされています。
傷害の故意をもって暴行を加えたものの傷害が生じなかった場合も含まれます。
つまり、上記ケースを例にとって考えると、Aさんが「人の身体に対して有形力を行使することを認識していたか」、つまり、「人に生卵をぶつけようとしていた」のであれば、暴行罪の故意が認められ、暴行罪に問われていた可能性があるでしょう。
しかし、上記ケースにおいては、人にぶつける意思があったことが認定できず、暴行の故意が認められないため、他人の身体・物件に害を及ぼすおそれのある場所に生卵を投げたとして軽犯罪法違反が成立するものとされたのでしょう。
被害者のいる事件において最も重要な弁護活動の一つに、被害者との示談交渉があげられます。
早期に被害者との示談を締結することで、刑事事件化や検察送致を回避したり、不起訴処分獲得の可能性を高めることができます。
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