単純横領罪と業務上横領罪

単純横領罪と業務上横領罪

単純横領罪業務上横領罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース①~
Aさんは、知人のVさんから100万円を預かっていましたが、Aさんは預かっていた100万円を自己の借金返済のために使ってしましました。
Vさんが、Aさんに預けた100万円を返してほしいと言ったところ、一向に返してくれないことを不審に思ったVさんは、兵庫県篠山警察署に被害届を出しました。
(フィクションです)

~ケース②~
Bさんは、会社で経理業務を担当していましたが、取引先から支払われた金額から少しずつ抜き取り自分のものにするといった行為を繰り返していました。
ある日、会社がBさんの不正に気づき、Bさんに横領した金額を全額返還するよう求めました。
会社は、Bさんを告訴する意思もあると言っています。
(フィクションです)

横領事件

上のケースどちらも、人から預かった物を勝手に処分してしまうという点で同じだと言えるでしょう。
しかし、問われ得る罪は異なります。
それでは、どのような点が罪名を異にすることになるのでしょうか。

単純横領罪

刑法第252条 
 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

単純横領罪は、「自己の占有する他人の物」または「公務所から保管を命ぜられた自己の物」を「横領」する犯罪です。
本罪の客体は、「自己の占有する他人の物」または「公務所から保管を命ぜられた自己の物」となります。
「占有」の意義については、「事実上または法律上物に対する支配力を有する状態」をいうと解されます。
本罪における「占有」は、「委託関係」に基づくことが必要となります。
委託関係は、一般的に民法の契約に基づいて発生することになりますが、契約に限らず、事務管理、後見などの法律上の規定による場合にも認められます。
委任関係は、事実上のものであればよく、委託者が物の保管を委託する法律上の権限を有するか否か、受託者が受託するうえで法律上の権限を有するか否かは問いません。
「他人の物」とは、他人の所有する財物のことをいいます。
ケース①では、VさんがAさんに金銭を委託しています。
民法上では、金銭の所有と占有は一致すると解されており、委託を受けて占有する者にとって当該金銭は「他人の物」といえない可能性があります。
しかし、本罪では委託者と受託者の二者間における財産の帰属が問われていることから、本罪の解釈では、民法上の解釈がそのまま適用されるわけではありません。
例えば、封をするなどして特定の金銭の保管だけを委託し、当該金銭を受託者が消費してしまった場合や、封がされていなくても使途を定めて寄託された金銭を消費した場合には、当該金銭は「他人の物」といえると解されます。
一方、消費を許す趣旨で金銭が寄託された場合、当該金銭の所有権は移転することになります。
横領罪の行為である「横領」については、委託に基づく信任関係を破棄し、委託物に対し権限を越えて行う処分行為というとする「越権行為説」と、委託物につき不法領得の意思を実現するすべての行為をいうとする「領得行為説」と見解が分かれていますが、判例は後者の見解にたっています。
ここでいう「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思です。
具体的な横領行為は、消費・着服といった事実上の処分行為と、売却・贈与といった法律上の処分行為が含まれます。
ケース①では、VさんがAさんに金銭を預けていますが、封金の保管だけをお願いしたとしましょう。
保管だけ頼んだのに、それを勝手に使ってしまったのですから、横領行為があったと言えるでしょう。
ですので、Aさんに対して単純横領罪が成立する可能性があります。

業務上横領罪

刑法第253条
 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

業務上横領罪の規定は、単純横領罪のそれに「業務上」という文言が加えられています。
本罪の客体は、「業務上自己の占有する他人の物」ということになります。
本罪における「業務」は、その性質上他人の委託に基づいて他人の財物を占有、保管する事務を反復継続して行う地位のことをいいます。
業務の根拠は、法令・契約、公的・私的を問わず、職業としてなされるものに限りません。
具体的には、質屋や倉庫業者、法人・団体の物をその職務上保管・管理する役職員が業務上の占有者です。
ケース②では、Bさんは会社の経理業務を担当しているので、業務上の占有者と言えます。
業務の関係で、会社のお金を管理していたBさんですが、その会社のお金をくすねていたのですから、Bさんに対しては業務上横領罪が成立するでしょう。

このように単純横領罪業務上横領罪は、「委託関係に基づき自己が占有する他人の物を横領する」という点で共通していますが、業務上横領罪には主体に「業務者」であることを求める点で異なります。
また、単純横領罪の法定刑は5年以下の懲役ですが、業務上横領罪のそれは10年以下の懲役と加重されています。
後者の法益侵害の範囲が広く、頻発のおそれが多く違法性が大きいため、一般予防の観点から刑を加重したと解されます。

横領事件では、被害弁済が済んでおり相手方と示談することができれば、刑事事件に発展する可能性は低いでしょう。
刑事事件化したとしても、被害者に被害金が返還されないこともあるので、被害者としては被害金が戻ってくることを優先することが多いからです。
ですので、横領事件を起こし刑事事件化するのではとお困りであれば、すぐに被害者への被害弁償や示談交渉を行う必要があります。
しかし、どうやって交渉すればよいのか分からない、実際に横領した額以上の額の返済を迫られているなど、本人が行うことが難しい場合もあります。
そのような時は、刑事事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
詳しくは、0120-631-881までお問い合わせください。

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