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偽証教唆で逮捕
偽証教唆について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
Aさんは、兵庫県神崎郡神河町内の有料道路を走行中、制限速度を時速42キロオーバーの時速102キロで走行していたところ、兵庫県警高速警備隊に発見され、道路交通法違反(速度超過)容疑で検挙されました。
Aさんは、捜査段階から被疑事実を否認しており、神戸地方検察庁姫路支部はAさんを道路交通法違反で起訴しました。
Aさんは公判で、「自分の車を追い抜いた別の車と勘違いされた」と主張しており、同乗していたBさんが証人としてAさんの主張と同様の発言をしました。
しかし、証人の証言を不審に思った検察が捜査を続けたところ、Bさんが「Aさんから口裏合わせを依頼された」と供述したので、Aさんを偽証教唆容疑で、Bさんを偽証容疑で逮捕しました。
(実際の事件を基にしたフィクションです)
偽証の罪とは
上記ケースでは、Aさんらは偽証罪に問われています。
あまり聞き慣れない罪名ですが、偽証罪とはどのような罪なのでしょうか。
刑法第百六十九条
法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
偽証罪の保護法益は、国の審判作用の適正な運用です。
裁判などで嘘の証言がなされると、公正な裁判を行うことが出来ませんから、そのような虚偽の証言がなされないよう、法律により宣誓した証人の偽証を処罰するものです。
主体:法律により宣誓した証人
「法律により」とは、法律の根拠に基づいて、という意味です。
直接法律に規定されている場合や、命令その他の下位立法の規定のある場合も含まれます。
「宣誓」は、有効に行われることが必要となります。
構成要件的行為:虚偽の陳述をすること
「虚偽の陳述」の意義については、主観説と客観説との間で争いがあります。
前者は、「虚偽」とは証人の記憶に反することとし、後者は、客観的事実に反すること、と解します。
判例は、証言の内容たる事実が真実に一致し、もしくは少なくともその不実であることを認めることはできない場合でも、証人がことさらにその記憶に反する陳述をなすときには偽証罪が成立する、として主観説を採っています。(大判大3・4・29)
主観説を採る場合、証人が思い違いをして、結果として客観的な事実と異なる証言をしたとしても、本人がそれが真実だと思い込んでいる場合には、偽証罪に問われないことになります。
共犯関係
刑事被告人が自己の刑事被告事件について、他人を教唆して協議の陳述をさせた場合、偽証罪の教唆犯が成立するか否か、つまり、刑事被告人は偽証罪の正犯とはなりえないのに、教唆犯になり得るのか、が問題となります。
「教唆」とは、他人を唆して犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。
教唆犯は、人を教唆して犯罪を実行させた場合に成立します。
判例・通説は、被告人が、自己の刑事事件に関し他人に偽証を教唆した場合、被告人自身に黙秘権があるからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れないとして、偽証教唆罪の成立を肯定しています。(最決昭28・10・19)
共犯事件は、罪証隠滅のおそれがあると認められ逮捕後勾留となる可能性が高いと言えるでしょう。
偽証罪を含めた刑事事件でお困りであれば、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
無料法律相談や初回接見のご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881まで。
不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)とは
不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)とは
不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆる、コンピュータ・ウイルスに関する罪)は、平成23年の改正により刑法に新たに設けられた罪で、不正指令電磁的記録作成等罪と不正指令電磁的記録取得等罪から成ります。
不正指令電磁的記録作成等
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。
(ア)不正指令電磁的記録作成・提供罪(本条1項)
本罪は、不正指令電磁的記録等を作成・提供する罪です。
構成要件は、
①正当な理由がないのに
②人の電子計算機における実行の用に供する目的で
③第1号または第2号に掲げる電磁的記録その他の記録を
④作成し、又は提供した
ことです。
①正当な理由の不存在
「正当な理由がないのに」というのは、「違法に」という意味です。
住居侵入罪の規定にもみられる「正当な理由の不存在」要件ですが、これは違法であることが本罪の成立要件であるという、当然のことを条文上明記したものです。
②目的
作成・提供罪は、目的犯です。
「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が必要となります。
「実行の用に供する」というのは、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことをいいます。
③客体
本罪の客体は、(a)「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」、および(b)「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」です。
ここでいう「人」は、犯人以外の者で、「電子計算機」とは、自動的に計算やデータ処理を行う電子装置のことをいいます。
パソコンやサーバ、スマートフォンの他、そのような機能を有するものは電子計算機に該当します。
パソコン等を使用する際に、あるプログラムが、使用者の「意図」に沿う又は反する動作をさせるものであるか否かが問題となりますが、その場合の「意図」については、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能について一般的に認識すべきであると考えられるところを基準として規範的に判断することになります。
ですので、ソフトウェアのある機能について単に利用者が知らなかった場合、通常その機能について使用者が認識できるようになっているのであれば、使用者の意図に反する動作とはなりません。
加えて、「不正な」指令であるというためには、あるプログラムの機能を踏まえて、社会的に許容し得るものでないことが必要です。
「電磁的記録」は、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものと定義されます。
つまり、電磁的記録というのは、一定の記録媒体の上に情報やデータが記録・保存されている状態を表す概念であり、情報やデータそれ自体や記録媒体そのものを指すものではありません。
また、(b)の「不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」とは、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」ものとして実質的に完成しているが、そのままでは電子計算機において動作させることができる状態にないものをいいます。
④行為
本条1項が処罰対象とする行為は、「作成」と「提供」です。
「作成」とは、当該電磁的記録等を新たに記録媒体上に存在するに至らしめることをいいます。
「提供」とは、不正指令電磁的記録等であることの情を知った上で、これを自己の支配下に移そうとする者に対し、これをその支配下に写して事実上利用し得る状態に置くことです。
このような定義より、提供罪については、先述した「人の電子計算機における実行の用に供する目的」の「実行の用に供する」は、提供の相手方以外の第三者であって、それが不正指令電磁的記録であることを認識していな者の電子計算機で実行され得る状態に置くことを指します。
(イ)不正指令電磁的記録供用罪(本条2項)
本罪は、不正指令電磁的記録を供用する罪です。
構成要件は、
①正当な理由がないのに
②前項第1号に掲げる電磁的記録を
③人の電子計算機における実行の用に供した
ことです。
②客体
本罪の対象は、先述した作成・提供罪の客体の(a)に限られています。
③行為
本罪の処罰対象とする行為は、「人の電子計算機における実行の用に供する」ことで、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことです。
不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)を含め刑事事件でお困りであれば、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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少年事件:家庭裁判所送致されたら
少年事件:家庭裁判所送致されたら
少年事件として家庭裁判所に送致された後の流れについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県加東市に住むAさんは、乾燥大麻を所持した疑いで兵庫県加東警察署に逮捕されました。
10日の勾留の後に、神戸家庭裁判所姫路支部に送致されました。
Aさんの両親は、逮捕の連絡を受けてすぐに少年事件に精通する弁護士に弁護を依頼しており、家庭裁判所送致後も同弁護士に付添人として動いてもらうよう頼んでいます。
(フィクションです)
捜査機関は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑がある場合、および犯罪の嫌疑が認められない場合であっても、家庭裁判所の審判に付すべき事由がある場合は、すべての事件を管轄の家庭裁判所に送致しなければなりません。
これを「全件送致主義」と呼び、少年保護の専門機関である家庭裁判所に、少年に対して如何なる処遇が適当であるかの判断をゆだねるものです。
少年事件では、成人の刑事事件における起訴猶予や微罪処分のような捜査機関で事件が終了するといったことはありません。
被疑者段階で逮捕・勾留されている少年が家庭裁判所に送致されると、家庭裁判所は、裁判所に到着したときから24時間以内に、「観護措置」をとるか否かを決定します。
観護措置について
「観護措置」は、家庭裁判所が調査・審判を行うため、少年の心情の安定を図りながら、その身柄を保全するとともに、緊急に少年の保護が必要である場合に、終局決定に至るまでの間、暫定的に少年を保護する措置です。
観護措置には、家庭裁判所調査官の観護に付する措置(在宅観護)と、少年鑑別所に送致する措置(収容観護)の2種類がありますが、実務上前者はほとんど活用されていません。
被疑者段階で身体拘束を受けた少年については、家庭裁判所送致後も引き続き少年鑑別所に収容する観護措置がとられることが多くなっています。
調査について
家庭裁判所では、審判に付すべき少年について、事件の調査が行われます。
実施される調査には、非行事実の存否等に関する調査(法的調査)と要保護性に関する調査(社会調査)とがあります。
社会調査は、家庭裁判所の調査官によって行われます。
調査官は、少年や少年の保護者と面会したり、学校に文書等で照会を行う等して調査を行います。
調査官は、実施した調査の結果とそれに基づく処遇意見をまとめた少年調査票を作成し、裁判官に提出します。
調査官の意見は、裁判官が少年に対する処分を決定する際に参考にされるため、最終的な処遇に大きく影響します。
審判について
家庭裁判所は、調査の結果、審判を開始するのが相当であると認めるときには、審判開始決定をしなければなりません。
観護措置がとられている事件については、調査官に対する調査命令と審判開始決定が同時になされ、審判期日が指定されるのが実務上の運営となっています。
審判開始決定がなされると、審判期日が指定されます。
審判には、裁判官、書記官、調査官、少年本人、少年の保護者、付添人が出席します。
審判では、非行事実についての審理が行われた後に、要保護性の審理が行われます。
続いて、調査官・付添人の処遇意見の陳述が行われ、少年の意見陳述が続きます。
最後に、裁判官より決定が言い渡されます。
審判にかかる時間は、非行事実に争いがなく、1回の審判で決定まで言い渡す事件の場合、40~50分程度となります。
少年事件は、成人の刑事事件とは異なる手続に基づいて処理されるため、少年事件についての相談・依頼は、少年事件に精通する弁護士に任せるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
お子様が事件を起こし、対応にお困りであれば、弊所の弁護士にご相談ください。
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偽造有価証券行使事件で逮捕
偽造有価証券行使事件で逮捕
偽造有価証券行使事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県神戸市兵庫区にある金券ショップの店長が、最近店で買い取った5千円のギフトカード10枚が偽物であることに気づきました。
店長はすぐに兵庫県兵庫警察署に通報し、同署は捜査を開始しました。
ほどなくして、警察は県内に住むAさんをはじめとした計6人を偽造有価証券行使などの疑いで逮捕しました。
逮捕の連絡を受けたAさんの家族は、面会を申し入れましたが、面会することができず不安になり、刑事事件に精通する弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
有価証券偽造の罪について
刑法第18章は、有価証券の偽造・変造・虚偽記入等を処罰するものです。
第百六十二条 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、三月以上十年以下の懲役に処する。
2 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。
第百六十三条 偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、三月以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
本章における「有価証券」とは、財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその正面の占有を必要とするものをいいます。(最判昭32・7・25)
その証券が取引上流通性を有すると否とを問いません。
具体的には、乗車券、定期券、宝くじ、郵便為替証券などです。
他方、切手、無記名提起預金証書、郵便貯金通帳、ゴルフクラブの入会保証金預託証書は有価証券に当たらないとされます。
さて、上記ケースで問題となっている「ギフトカード」についてですが、これは、商品やサービスの購入代金支払いの際に利用するための一定金額の価値を有するカード型の金券であり、「有価証券」に該当します。
1.有価証券偽造・変造罪
本罪の構成要件的行為は、行使の目的で、有価証券を「偽造し、又は変造」することです。
「偽造」とは、作成権限のない者が、他人の名義を冒用して有価証券を作成することをいいます。
形式や外観において一般人が真正な有価証券であると誤信する程度のものであることが必要となります。
「変造」とは、権限を有しない者が、真正に成立した他人名義の有価証券の非本質的部分に変更を加えることをいいます。
これもまた、一般人が真正なものとして誤信する程度の外観・形式を備えていることが必要です。
また、主観的要件として、故意の他に「行使の目的」が必要です。
「行使の目的」とは、その用法に従い、真正なものとして使用する目的をいいます。
2.有価証券虚偽記入罪
行使の目的をもって、有価証券に虚偽の記入をする罪です。
「虚偽記入」の意義について、判例は、既成の有価証券に対するかどうかにかかわらず、有価証券に真実に反する記載をするすべての行為を指すものであり、手形に関しては、基本的な振出行為を除いた、いわゆる附属的手形行為の偽造等をいうものと理解するのが相当であるとしています。
3.偽造有価証券行使等罪
本罪は、偽造もしくは変造の有価証券または虚偽の記入がある有価証券を「行使・交付・輸入」する犯罪です。
「行使」は、偽造・変造または虚偽の記入をした有価証券を真正または内容の真実なものとして使用することです。(大判明44・3・31)
通貨偽造の場合と異なり、流通におくことは必要とされません。
そのため、事故の資産信用状態を誤信させるために、見せ手形として使用する場合も行使にあたります。
「交付」とは、情を知らない他人に偽造・変造または虚偽の記入をした有価証券であることの情を明かして、または情を知っている他人にこれを与えることをいいます。
なお、「交付」および「輸入」は、「行使の目的」で行われることが必要です。
以上の罪に関する法定刑は、懲役刑のみとなっており、重く処罰される可能性があります。
また、複数人で共謀し犯行に及んでいることも多く、逮捕・勾留となれば、接見禁止が付く場合もあるでしょう。
ご家族が偽造有価証券行使事件で逮捕されたら、すぐに刑事事件に精通する弁護士にご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
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電磁的記録不正作出の少年事件
電磁的記録不正作出の少年事件
電磁的記録不正作出罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県高砂市の飲食店にアルバイトとして勤務しているAくんは、アルバイト中に客が会計に使用したクレジットカードの情報を盗み取り、スマートフォン決済サービスに登録しました。
Aくんは、家電量販店で無断で登録したスマートフォン決済サービスを使用し、商品を購入しました。
身に覚えのない支払い請求に気づいたクレジットカードの所有者が、クレジットカード会社に問い合わせたことで不正利用が発覚しました。
Aくんは、詐欺および電磁的記録不正作出・同供用の容疑で逮捕されました。
(実際の事件に基づいたフィクションです)
キャッシュレス決済は、現金を持ち歩く必要がないので、盗難や紛失といった心配がないですし、スマートフォン決済サービスはスマートフォンでQRコードを読み取るだけで決済ができるので非常に便利だと言われています。
今回ご紹介する事例は、そのスマートフォン決済サービスを悪用した事件です。
手軽に決済できる利点がある一方、情報が外に漏れると便利なサービスが悪用される可能性があるといったことが心配されます。
上記ケースでは、Aさんは詐欺罪および電磁的記録不正作出・同供用罪に問われています。
電磁的記録不正作出・同供用罪について、あまり聞き慣れない犯罪ですが、今回はこの罪についてみていきたいと思います。
電磁的記録不正作出罪・同供用罪
電磁的記録不正作出罪・同供用罪は、刑法第161条の2に規定されています。
第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4 前項の罪の未遂は、罰する。
1.電磁的記録不正作出罪
電磁的記録不正作出罪は、刑法第161条の2第1項および2項に規定されています。
1項は電磁的記録の不正な作出を処罰し、2項では公務所または公務員により作られる公電磁的記録について刑を加重しています。
本罪の客体は、人の事務処理の用に供する権利、義務または事実証明に関する電磁的記録です。
まず、「電磁的記録」というのは、電子的方式、時期的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録のことで、コンピューターによる情報処理の用に供されるものをいいます。
ハードディスクなどの記録媒体の上に、情報やデータが記録・保存された状態を指します。
「権利義務に関する電磁的記録」は、銀行の預金元帳ファイルの残高記録、プリペイドカードの残額記録、自動改札機用定期券の磁気記録などが含まれます。
「事実証明に関する電磁的記録」は、キャッシュカードの磁気ストライブ部分の記録、パソコン通信のホストコンピューター内の顧客データベースファイルの記録、売掛金その他の会計帳簿ファイルの記録などが含まれます。
本罪の構成要件的行為は、人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務または事実証明に関する電磁的記録を不正に作ることです。
「人の事務処理を誤らせる目的」についてですが、これは、不正に作られた電磁的記録を用いて他人の事務処理を誤らせる目的のことを意味します。
「人の事務処理」について、「人」は行為者以外のすべての者をいい、「事務処理」とは、財産上、身分上その他人の生活に影響を及ぼし得るすべての仕事をいいます。
「不正に作る」とは、事務処理を行おうとする者の意思に反して無権限あるいは権限を濫用して電磁的記録を作出することをいいます。
上記ケースについてみると、Aくんは客が提示したクレジットカードの情報を利用してスマートフォン決済サービスの登録をしました。
登録に際しては、個人情報、決済に必要な銀行口座やクレジットカードの情報を決済サービス会社に申請しなければなりません。
Aくんは、不正に入手した他人のクレジットカードの情報を自分のものかのように偽って申請しています。
ですので、Aくんは、人の事務処理(=スマートフォン決済サービス)を誤らせるために、その事務処理のために使用する事実証明に関する電磁的記録(=クレジットカードの情報)を偽って申請しスマートフォン決済サービスに登録したので、Aくんに対して電磁的記録不正作出罪が成立するものと考えられます。
2.不正作出電磁的記録供用罪
不正に作られた権利、義務または事実証明に関する電磁的記録を、人の事務処理を誤らせる目的で、人の事務処理の用に供する犯罪です。
「人の事務処理の用に供する」とは、不正に作出された電磁的記録を、人の事務処理のために、これに使用されるコンピューターにおいて用い得る状態に置くことをいいます。
少年が電磁的記録不正作出・同供用事件を起こした場合、成人の刑事事件と同様に、捜査機関に逮捕される可能性は高いでしょう。
その後、家庭裁判所に送致され、調査・審判を経て少年の更生に適した処分が決定されることになります。
少年事件の手続は、成人の刑事事件のものと異なりますので、少年事件でお困りであれば、少年事件に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
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刑事事件(水道汚染罪)で取調べ
刑事事件(水道汚染罪)で取調べ
水道汚染罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県相生市にある賃貸マンションに設置された受水槽に入り泳いでいたとして、水道設備会社の従業員AさんとBさんは、兵庫県相生警察署で取り調べを受けました。
警察からは、受水槽で遊泳する行為は、水道汚染罪にあたるため刑事事件として捜査していると言われました。
今後の流れや取り調べ対応について不安を感じたAさんは、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(実際の事件に基づいたフィクションです)
受水槽で遊泳する行為は何の罪になるの?
少し前に起きた事件ですが、福岡県にある賃貸マンションの屋上に設置された受水槽で、施工を依頼した水道設備会社の従業員らが遊泳している様子を撮影した動画が流出した事件がありました。
遊び半分でやった行為だとは思いますが、このような行為も犯罪に当たる可能性があることに注意が必要です。
それでは、受水槽で遊泳する行為は、一体どのような罪に問われ得るのでしょうか。
水道汚染罪
水道汚染罪は、刑法第143条に規定されています。
第百四十三条 水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源を汚染し、よって使用することができないようにした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。
水道汚染罪は、水道浄水またはその水源を汚染し、公衆の飲用を阻害する行為を処罰するものです。
「水道」とは、浄水をその清浄さを保ったまま一定の地域・場所に導くための人工的施設・設備をいいます。
人の飲料に適し得る程度の清潔な水を「浄水」といいます。
人工の全く加えられていない天然の水路は、そこを流下する浄水を人が飲料として使用していても水道にはあたりません。
「公衆」とは、不特定または多数人のことであり、1世帯程度では足りないと解されます。
「供給する飲料の浄水」は、水道施設・設備の中にあって供給途上にある飲料としての浄水を意味します。
また、「水源」とは、水道に流入する以前の水のことです。
「汚染」の意義についてですが、浄水を不潔にする一切の行為を含みます。
毒物など人の健康を害するような物を用いる場合は、浄水毒物等混入罪(刑法第144条)が成立することになりますので、それ以外の方法によるのであればその如何は問われません。
そして、「使用することができない」状態というのは、物理的・生理的・心理的なものであるとを問いません。
浄水に放尿する、異物を混入するといった行為は、それをそのまま飲料として使用することには抵抗があるのが一般的ですから、そのような状態にすれば、「使用することができない」と言えます。
また、一見すると特段の変化を認識することができず、供給を受けた者が汚染の事実を知らずに現に飲料として使用した場合であっても、汚染行為があったことを知ったならば、通常これを飲むことをためらうようであれば「使用することができない」状態となります。
マンションなどに設置される「受水槽」は、水道の配水管から水を引き込み、水道水を貯水する設備です。
飲料用に使われることも多く、常にメンテナンスと管理が必要です。
飲料としても使用される水道水が貯蔵された受水槽に、人が泳いでいたとしたら、その水を誰が飲みたいと思うでしょうか。
通常、そのような行為があったと知れば飲料として使用したいとは思わないですよね。
よって、受水槽で遊泳する行為が水道汚染罪に当たる可能性はあるでしょう。
軽い気持ちで遊び半分で行う行為が、実は犯罪となるなんてこともあるのです。
あなたやあなたの家族が、刑事事件で被疑者として取調べを受けてお困りであれば、刑事事件・少年事件を専門に扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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住居侵入事件で不起訴
住居侵入事件で不起訴
住居侵入事件で不起訴獲得に向けた活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県芦屋市のマンションのベランダに侵入したとして、兵庫県芦屋警察署は、県内に住むAさんを住居侵入の容疑で逮捕しました。
Aさんは容疑を認めていますが、接見に来た弁護士に不起訴処分について質問しています。
(フィクションです)
住居侵入罪とは
刑法
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
住居侵入罪(刑法第130条前段)は、正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した場合に成立する犯罪です。
住居侵入罪の客体:人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船
(ア)人の住居
「住居」は、人の起臥寝食に使用される場所です。
放火罪に関するものですが、判例は、人の住居に使用する建造物とは、現に人の起臥寝食の場所として日常使用される建造物をいうと解しています。(大判大2・12・24)
使用は、一時的なものでもよく、旅館やホテルなどの客室については、その利用が短時間であっても、起臥寝食に使用されるものである限り「住居」にあたるとされます。(名古屋高判昭26・3・3)
「人の」住居とは、自分が居住者でない住居という意味で、かつて移住していたとしても、住居から離脱した者が、現に居住する者の許諾なく立ち入る場合には、住居侵入罪が成立する可能性があります。
(イ)人の看守する邸宅、建造物、艦船
「人の看守する」とは、人が事実上管理、支配していることをいいます。
「邸宅」は、人の住居の用に供される家屋に付属し、主として居住者の利用に供されるために区画された場所のことで、集合住宅の通路や階段といった共有部分が該当します。
「建造物」とは、住居、邸宅以外の建造物とこれに付属する囲繞地をいいます。
また、「艦船」は、軍艦・船舶のことです。
住居侵入罪の行為:正当な理由がないのに侵入する
(ア)侵入
判例は、管理権者の意思に反した建造物への立入りをいうと解しています。(最判昭和58・4・8)
邸宅・建造物・艦船については、看守者が管理権者となり、住居については、居住者がそれとなります。
住居侵入罪の成否は、立入りについての管理権者の有効な許諾の有無によって決まるため、立入りの許諾が欺罔などによる錯誤に基づいて与えられた場合、有効な許諾が認められるかが問題となります。
この点、判例は、同意があっても、それが錯誤に基づく場合には、住居侵入罪が成立するとの立場に立っています。
例えば、被害者において顧客を装い来店した犯人の申出を信じて店内に入ることを許容したからといって、強盗殺人の目的をもって店内に入ることを承諾したとはいえないので、当該侵入行為は本罪を構成するとした判例があります。(最判昭23・5・20)
(イ)正当な理由がないのに
「正当な理由がないのに」とは、違法にという意味です。
住居侵入は、他の犯罪行為を実行する手段として行われることが多い犯罪です。
多いのが、侵入盗による窃盗罪と住居侵入罪ですが、これらの罪は牽連犯となり、その最も重い刑により処断されることになります。
住居侵入事件で不起訴を獲得するには
住居侵入事件は、住居等に侵入された被害者がいますので、被害者との示談成立に向けた活動は最も重要な弁護活動のひとつです。
被害者との示談が成立した場合には、検察官が不起訴処分で事件を処理する可能性が高くなります。
ですので、住居侵入事件で不起訴処分獲得を目指すのであれば、早期に被害者対応に着手する必要があります。
被害者との示談交渉は、当事者間で行うのではなく、弁護士を介して行うのが一般的です。
住居侵入事件を含めた刑事事件でお困りの方、被害者との示談交渉でお悩みの方は、今すぐ刑事事件・少年事件を専門に扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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通貨偽造罪・同行使等罪で逮捕
通貨偽造罪・同行使等罪で逮捕
通貨偽造罪・同行使等罪で逮捕された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
会社員のAさんは、自宅でインクジェットプリンターを使い、一万円札10枚を偽造し、偽造した一万円札を使用して兵庫県伊丹市にある店でブランドの時計を購入したとして、兵庫県伊丹警察署に通貨偽造罪・同行使等罪の容疑で逮捕されました。
(フィクションです)
通貨偽造罪とは
10月の増税や来年のオリンピック・パラリンピックの開催を機に、キャッシュレス決済が推進される今日ですが、私たちの生活において、お金は必要不可欠です。
物やサービスを購入するためには、お金を支払う必要があります。
お金には価値があるとの信用があるからこそ、私たちの経済取引は主にお金を用いて行われています。
しかし、もしそのお金の偽物が多く出回り、お金に対する信用が失われたとしたら、私たちの生活は様々な面でうまく回らなくなってしまいます。
そこで、お金の価値やその信用性を守るため、刑法は通貨偽造の罪を規定し、通貨の偽造等を処罰の対象としています。
通貨偽造の罪としては、通貨偽造罪・同行使等罪、外国通貨偽造罪・同行使等罪、偽造通貨等収得罪、以上の罪の未遂罪、収得後知情行使罪、通貨偽造等準備罪が規定されています。
ここでは、通貨偽造罪・同行使等罪について解説します。
通貨偽造罪・同行使等罪は、刑法第148条に次のように規定されています。
第百四十八条 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。
通貨偽造罪
通貨偽造罪は、行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した場合に成立する罪です。
(1)客体:通用する貨幣、紙幣又は銀行券
「通用する」とは、事実上流通していることではなく、日本において強制通用力を有するという意味です。
古銭や廃貨は強制通用力を失っているので、通貨ではありません。
「貨幣」は、いわゆる硬貨で、「紙幣」とは、政府のは行する貨幣に代用される証券のことですが、現在紙幣は発行されていません。
「銀行券」とは、政府の認許によって日本銀行が発行している貨幣に代用される証券のことで、一般に紙幣と呼ばれているのはこの銀行券です。
通貨偽造罪における「通貨」は、貨幣・紙幣・銀行券の総称です。
(2)行為:行使の目的をもって偽造し、または変造すること
行使目的の「行使」は、神聖な通貨として流通におくことです。
他人に行使させる目的でもよく、行使目的があれば偽造通貨が流通に置かれる有意な危険が発生するので、成立要件とされています。
「偽造」とは、通貨の製造・発行権限を有しない者が、一般人をして、真貨と誤信させるような外観のものを作り出すことをいいます。
ですので、真貨に似てはいるけれども、一般人の注意力をもってすれば真貨と誤認しない場合は偽造ではなく、模造となります。
また、「変造」とは、通貨の製造・発行権限を持たない者が、真貨に加工して真貨に似た物を作成することをいいます。
偽造通貨行使等罪
偽造・変造した通貨を行使、又は行使目的で人に交付し、若しくは輸入した場合に成立する罪です。
(1)客体:偽造又は変造された貨幣、紙幣又は銀行券
行使の目的をもって偽造・変造されたことを必要とせず、また、誰によって偽造・変造されたかは問われません。
(2)行為:行為、行使目的による交付、行使目的による輸入
ここでいう「行使」というのは、偽貨を真貨として流通に置くことをです。
人に対して直接行使される場合だけでなく、自動販売機での使用も行使に含まれます。
「交付」とは、偽貨であることを告げ、又は偽貨であることを知る者に偽貨の占有を移転することをいいます。
また、「輸入」は、国外から国内に搬入することをいいます。
偽造通貨行使等罪は、偽貨を真正なものとして流通に置いた時点でただちに既遂となります。
通貨偽造罪・同行使等罪は、その法定刑が「無期又は三年以上の懲役」であり、裁判員裁判対象事件です。
裁判員裁判は、通常の刑事裁判と異なる手続となりますので、早期に刑事事件に精通する弁護士に相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
刑事事件・少年事件でお困りであれば、弊所の弁護士にご相談ください。
美方郡新温泉町の往来危険事件
美方郡新温泉町の往来危険事件
往来危険罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県美方郡新温泉町のJR山陰本線久谷-浜坂間で、普通電車が、線路上に置かれた石と接触し、緊急停車しました。
乗客約20名に怪我はありませんでした。
異音に気づいた運転手が、線路を確認したところ、線路脇に石の砕粉が残っていました。
兵庫県美方警察署は、何者かが故意に石を線路に置いたとみており、往来危険の疑いで捜査しています。
(実際の事件に基づいたフィクションです。)
往来危険罪とは
あまり聞き慣れない「往来危険罪」とは、どのような犯罪なのでしょうか。
往来危険罪は、刑法第125条に次のように規定されています。
第百二十五条 鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期懲役に処する。
2 灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により、艦船の往来の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
往来危険罪は、汽車・電車・艦船といった現代の主要交通機関の往来の安全を害する行為を、一般の往来妨害よりも重く処罰するものです。
「鉄道」は、レールだけでなく、構造上これと密接不可分の関係にあり、汽車、電車の走行に直接役立っているものすべて、例えば、枕木、鉄橋、トンネルなど、を含みます。
「標識」は、信号機その他運行のための目標を指します。
また、「灯台」とは、夜間、艦船の航行の利便を図るために灯火をもって示した陸上の標識であり、「浮標」とは、艦船の航行上安全か否かや、水の深さを表示する水上の目標、標示物をいいます。
往来危険罪の実行行為は、鉄道、標識、灯台、浮標を「損壊」し、またはその他の方法で、汽車、電車、艦船の往来の危険を生じさせることです。
「損壊」とは、物理的に破壊して、その効用を損なわせることをいいます。
そして、「その他の方法」とは、上の「損壊」以外の方法で、汽車、電車、艦船の往来の危険を生じさせることをいいます。
その手段や方法は問いません。
判例は、無人電車を使用する行為や、鉄道軌道上に石塊その他の障害物を置くことも「その他の方法」に当たるとしています。(大判大9・2・2)
往来危険罪の成立には、交通の妨害を生じさせた程度では足りず、交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態を発生させることが必要です。
つまり、汽車・電車・艦船の衝突・脱線・転覆・沈没・破壊など交通の安全を害するおそれのある状態が生じたことが必要となります。
この点、判例は、実害が発生するおそれについては、一般的可能性で足り、その必然性や蓋然性は必要ではないとしています。(大判大11・12・1)
電車の線路上に石塊をおくことにより、その上を走行した電車が脱線し横転する可能性が生じますので、上記ケースでは、損壊以外の「その他の方法」により汽車・電車の往来の危険を生じさせたと言えるでしょう。
いたずらのつもりで線路に石を置いたとしても、往来危険罪という犯罪が成立する可能性がありますので、いたずらでは済まされません。
また、往来危険罪を犯し、よって汽車・電車を転覆させたり、破壊した場合、または艦船を転覆・沈没・破壊させた場合には、より重い往来危険による汽車転覆等罪が成立する可能性があります。
往来危険事件を含めた刑事事件・少年事件でお困りの方は、刑事事件・少年事件を専門に扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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失火罪で刑事事件に
失火罪で刑事事件に
失火罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース~
兵庫県養父市の山林で、Aさんは焚火をしていました。
しかし、その日は風が強く、焚火の最中に火が広がり、山や他人の住宅まで延焼させてしまいました。
兵庫県養父警察署は、失火の疑いで、Aさんへの取調べを開始しました。
(フィクションです)
刑法は、第9章を「放火及び失火の罪」と題して、放火罪と失火罪について規定しています。
まず、放火罪のうち、「現住建造物等放火罪」、「非現住建造物等放火罪」、そして「建造物等以外放火罪」は次のように規定されています。
(現住建造物等放火)
第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
(非現住建造物等放火)
第百九条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
(建造物等以外放火)
第百十条 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
これら3罪に共通する実行行為である『「放火」して客体を「焼損」したこと』についてですが、「放火」とは、故意によって不正に火力を使用し物件を焼損させることをいいます。
積極的な放火行為だけでなく、判例は、事故の過失により物件を燃焼させた者が、その既発の火力により建物が焼損されることを認容する意思をもって、あえて必要かつ容易な消火措置をとらないことは、不作為の放火行為といえるとして、不作為による放火行為を認めています。
また、「焼損」の意義については、幾つかの見解が主張されていますが、判例は、火が媒介物を離れ、目的物が独立に燃焼を継続するに至った状態を損傷と解する独立燃焼説を採っています。
一方、失火罪は、次のように規定されています。
第百十六条 失火により、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を焼損した者は、五十万円以下の罰金に処する。
2 失火により、第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
失火罪は、
①失火により、現住建造物等または他人の所有に係る非現住建造物等を焼損した場合、
または、
②失火により、自己が所有する非現住建造物等または建造物等以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた場合、
に成立する犯罪です。
「失火」とは、過失により出火させることをいいます。
ここでいう「過失」は、火気の取扱上の落度をいい、出火して目的物を焼損するに至るべき事情があるときに、
①当該事情を認識できたにもかかわらず認識しなかったこと、
②当該事情から出火の危険性がないと軽信したこと、
により出火防止のための適切な手段をとらずに結果を生じさせたことを意味します。
重大な過失による場合は、重失火罪となり、法定刑は3年以下の禁錮または150万円以下の罰金となります。
放火罪の法定刑に比べると、失火罪は50万円以下の罰金刑となっています。
放火罪と失火罪の大きな違いは、故意に火をつけたか否かというところでありますが、先述したように、火をつけるつもりがなく不注意によって火をつけてしまった場合であっても、火災を予防・消火するための積極的措置をとらなければならない立場にいる者が、そのままでは建物等を焼損させてしまう可能性があることを分かっていながら、必要な消化措置をとらなかった、通報しなかったのであれば、「放火」に当たる可能性もあります。
放火罪・失火罪を含め刑事事件でお困りであれば、刑事事件・少年事件を専門に扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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