置き引き事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
兵庫県朝来市のスーパーマーケットで置き引き事件が発生しました。
男性客Vさんがビールを1ケースを購入しようと、傍に持っていた自分のカバンを置き、ビールの入った段ボール箱を持ち上げたところ、カバンを置いたままそのままレジに向かってしまいました。
Vさんは会計時に自分のカバンがないことに気が付き、慌ててビール売り場に戻りましたが、カバンは既になくなっていました。
店員にも確認してもらいましたが、落とし物として届けられてはいませんでした。
店の防犯カメラには、Vさんが立ち去った直後に、別の男性が現れ、Vさんのカバンを手に取り、中身を確認したうえで、カバンを持ち去る映像が残っていたため、店長は警察に通報しました。
通報を受けて捜査を開始した兵庫県朝来警察署は、後日、市内に住むAさんを置き引き事件の容疑者として逮捕しました。
(フィクションです。)
置き引き事件~窃盗罪が成立する場合~
置いてある他人の荷物を許可なく持ち去る行為を、一般に「置き引き」と呼びます。
この「置き引き」は、刑法上の「窃盗罪」または「占有離脱物横領罪」に当たる可能性があります。
ここでは、窃盗罪が成立する場合について解説します。
窃盗罪とは
窃盗罪は、「他人の財物を窃取」する犯罪です。
◇犯行の対象◇
窃盗罪における犯行の対象は、「他人の占有する財物」です。
「財物」は、形があるもの(=有体物)と理解されていますが、有体物でなくとも、電気など物理的に管理可能なものも含まれます。
「他人の占有する」というのは、人が物を実力的に支配している状態を意味します。
物を実際に持っている場合が「占有」の典型的な例ですが、それ以外にも、物に対する「事実上の支配」があれば、窃盗罪における「占有」が認められます。
「事実上の支配」は、物を客観的に支配している場合だけでなく、物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態も含まれます。
そして、物の支配をいつでも取り戻せる状態であるかどうかは、支配の事実や占有の意思という2要素を考慮して判断されます。
◇行為◇
窃盗罪の行為である「窃取」とは、財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいいます。
◇結果◇
財物の他人の占有を排除して、自己または第三者の占有に移したことにより、窃盗罪の実行に着手してこれを遂げ、犯罪を完成させたことになります。
◇故意◇
窃盗罪は故意犯ですので、犯罪の成立には、罪を犯す意思(=故意)がなければなりません。
窃盗罪の故意は、他人の財物を窃取することの認識・認容です。
◇不法領得の意思◇
条文上の規定はありませんが、窃盗罪の成立には、主観的要件として故意のほかに、「不法領得の意思」が必要となります。
「不法領得の意思」というのは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用しまたは処分する意思のことです。
置き引きが窃盗罪に当たるかどうかを判断する際のポイントは、行為時に、他人の占有があるかどうかです。
つまり、犯人が他人の財物を手に入れたとき、その財物に他人の占有が認められるか否か、という点が問題となります。
先にも述べたように、「占有」の概念については、その物に対する「事実上の支配」の有無が問題となります。
「事実上の支配」とは、持ち主が物を目に見える形で支配している場合だけでなく、持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態をも含みます。
そして、持ち主が物の支配を取り戻そうと思えばいつでも取り戻せる状態であるかどうかについては、持ち主の物に対する支配の事実や支配の意思の観点から判断されます。
持ち主の物に対する支配の事実については、持ち主が物を置き忘れてから気付くまでの時間的、場所的近接性が、支配の意思については、持ち主が物の存在していた場所をどの程度認識していたか、といった点が考慮されます。
上の事例では、具体的な時間的場所的関係は明らかではありませんが、スーパーマーケットの酒売り場でカバンを置き忘れ、会計時に気付いてすぐに酒売り場に戻ってきていますので、持ち主が物を置き忘れてから気付くまでの時間的・場所的近接性が認められ、置き忘れた場所もしっかりと認識していたことから、カバンに対する事実上の支配が認められる可能性があるでしょう。
窃盗罪のような財産犯では、被害の回復の如何が最終的な結果に大きく影響します。
そのため、窃盗事件を起こした場合には、できる限り早期に被害者に対して被害弁償、示談に向けた交渉を行うことが重要です。
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