中止犯について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
~ケース①~
兵庫県兵庫県須磨区の路上で、Aさんは深夜に帰宅途中の若い女性を背後から襲い、近くの空き地に連れて行き、服を無理やり脱がした上で、行為に及ぼうとしました。
しかし、女性の悲痛な顔を見たことで、「可哀そうだ。」と我に返ったAさんは、その場から逃亡しました。
後日、兵庫県須磨警察署は、Aさんを強制性交等未遂の疑いで逮捕しました。
(フィクションです)
~ケース②~
兵庫県神戸市須磨区の路上で、Aさんは深夜に帰宅途中の若い女性を背後から襲い、近くの空き地に連れて行き、服を無理やり脱がした上で、行為に及ぼうとしました。
しかし、その夜は非常に寒かったため、女性の身体に鳥肌がたっており、これを見たことで、性欲が減退したAさんは、その場から逃亡しました。
後日、兵庫県須磨警察署は、Aさんを強制性交等未遂の疑いで逮捕しました。
(フィクションです)
中止犯とは
ケース①もケース②も、いずれもAさんは性交するに至らず、いずれも強制性交等未遂罪で逮捕されています。
未遂犯の場合、既遂(最終的に結果まで発生されたもの。強制性交等罪の場合には、実際に性交した場合をいいます)と比較して、その法定刑を減軽することが「できる」とされています(刑法43条)。
強制性交等罪の場合、法定刑は5年以上の懲役ですので、強制性交等未遂罪の法定刑が、2年6月以上の懲役という形で減軽される「こともある」ということになります。
これに対して、「自己の意思により犯罪を中止したとき」は、「刑を減軽し、又は免除する」とされており(刑法43条但書)、単なる未遂犯の場合と異なり、必ず法定刑が減免されることになっています。
このような場合を、一般に、中止犯と呼んでいます。
なお、中止犯は、自己の意思によって犯罪を中止しなければいけませんから、犯罪が既遂に達しているときには中止犯には当たり得ません。
未遂犯であることが前提となります。
中止犯の減免根拠
なぜ中止犯の場合に、刑が必ず減免されることになっているかについては、学説が分かれています。
よく説明に用いられるのは、政策説と呼ばれるものです。
法律は、できる限り結果の発生を避けることを目標としていますが、犯罪の実行に着手した犯人にも、できる限り最後の結果発生前に思いとどまってほしいと考えています。
そのため、「後戻りのための黄金の架け橋」として中止犯規定を設けておき、犯人に対して、犯罪を途中でやめるよう働きかけをしているというのが、この説の内容です。
これだけですべてを説明できるものではないかもしれませんが、中止犯というのは刑事政策的に設けられた規定であることは否定できないように思えます。
任意性
それでは、「自己の意思により犯罪を中止した」とはどのような場面でしょうか。
先ほど述べた通り、中止犯の規定は、刑事政策的な意図に基づいて設定されているものですから、刑の減免をするのに相応しい場面が選択されることになります。
一般に、この要件を「任意性」と呼んでおり、どのような場合が任意に犯罪を中止したといえるのかについて、判例や学説の集積があります。
この点について裁判例では、同じ立場に立たされた一般人であれば、通常犯行の継続を思いとどまらせるような状況であったかどうかということを基準に判断をしているものがあります。
しかし、判例上明確な定義などはなく、個別具体的な場面に応じて判断されるというほかありません。
中止行為
中止犯が成立するためには、「中止した」ことが要件となります。
実行行為自体が途中である場合には、それ以上行為を継続しなければ結果は発生しないため、行為を止めること自体で中止行為といえますが、既に実行行為が終了して結果が発生する前のような場合には、結果発生を防止するような行為を行う必要があります。
例えば、殺人のため、時限爆弾を仕掛けたというような場合には、実際にその爆弾を撤去するなどしなければ、中止行為として認められないということになります。
それでは、それぞれのケースについて中止犯の規定が適用されるかどうかを考えます。
①のケースは、Aさんが被害者の顔を見てかわいそうと考え、犯行を中止したというものです。一旦強制性交等罪に着手した以上、周りに人がいるとか、被害者に抵抗されるというような事情がない限り、犯人にとって、性交することに特段の障害があったとはいえません。
しかし、今回の場合には、かわいそうに思うという、犯人特有の事情により、犯罪の実行を中止ししたといえるでしょうから、
ケース①の場合には中止犯の規定が適用されると思われます。
これに対し、ケース②は、被害者の鳥肌をみて性欲が減退したというものです。
もちろん、この場合も物理的な障害があったというわけではありませんが、同じ状況に置かれた一般人であっても、性欲が減退するということは十分考えられます。
そのため、このような場合まで、中止犯の規定の恩恵を与えることは適当ではありません。
よって、ケース②の場合には中止犯規定は適用されないと思われます。
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