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少年事件における身体拘束②:家庭裁判所送致後

2019-12-05

少年事件における身体拘束について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県三田市にある民家を訪れ、弁護士の秘書と偽り住民女性からキャッシュカードを盗み取ったとして、兵庫県三田警察署は、Aくん(17歳)を窃盗の疑いで逮捕しました。
Aくんは、「簡単に稼げる仕事がある」と知人から紹介され、これまで数件同様の犯行を行っていました。
「仕事内容が特殊詐欺だということは分かっていたが、簡単に大金が手に入るのと、一度やったらやめるとは言いにくくなった。」と供述しています。
逮捕の連絡を受けたAくんの家族は、警察から「身体拘束期間は長くなることを覚悟してください。」と言われて、今後のことが心配になり、急いで少年事件に精通する弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

20歳未満の者(以下、「少年」といいます。)が事件を起こした場合、少年であっても身体拘束を受ける可能性があります。
前回のブログでは、家庭裁判所送致前の捜査段階における少年身体拘束の可能性について取り上げました。
今回は、家庭裁判所送致された後身体拘束の可能性についてみていきたいとおもいます。

家庭裁判所送致後の身柄拘束

捜査機関は、少年の被疑事件について、捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑がある場合、および犯罪の嫌疑が認められない場合であっても家庭裁判所に審判に付すべき事由がある場合は、すべての事件を家庭裁判所送致しなければなりません。
これを「全件送致主義」といいます。
少年事件では、成人の刑事事件のように、起訴猶予や微罪処分といった捜査機関限りで事件を終了させることは認められていません。

事件が家庭裁判所送致された後に、少年身体拘束を受けるのは、「観護措置」がとられた場合です。
「観護措置」というのは、家庭裁判所が調査・審判を行うために、少年の心情の安定を図りつつ、少年の身体を保護してその安全を図る措置のことです。
観護措置には、家庭裁判所調査官の観護に付する措置(「在宅観護」)と、少年鑑別所に収容する措置(「収容観護」)の2種類がありますが、前者は実務上ほとんど活用されていません。
ですので、「観護措置」というときは後者を指すものとなっています。

観護措置の要件

少年法第17条第1項は、観護措置の要件として、「審判を行うため必要があるとき」と規定していますが、その他の要件については明記していません。
一般的には、次のような要件があると言われています。
①審判条件があること。
少年が非行を犯したことを疑うに足りる相当の理由があること。
③審判を行う蓋然性があること。
④観護措置の必要性が認められること。

④の「観護措置の必要性」については、以下のいずれかの事由がある場合に認められるとされます。
(a)調査、審判および決定の執行を円滑、確実に行うために、少年の身体を確保する必要があること。(住所不定、証拠隠滅のおそれ、逃亡のおそれがあるため、身体を確保する必要性がある場合など)
(b)緊急的に少年の保護が必要であること。(自殺自傷のおそれがある、家族から虐待を受けるおそれがある、不良集団等の影響により非行性が急速に進行するおそれがある場合など)
(c)少年を収容して心身鑑別をする必要があること。

観護措置の期間は、法律上は2週間を超えることはできず、特に継続の必要があるときに1回に限り更新することができるとされていますが、実務上は、更新されるのが通常であり、観護措置の期間は、概ね4週間となっています。
観護措置がとられた場合、家庭裁判所送致された後、1か月間少年鑑別所に収容されることになります。
そのため、学校や職場に行くことができず、退学や懲戒解雇となる可能性は高まります。
一方で、少年少年鑑別所に収容されることで、少年が落ち着いた環境で事件や少年自身が抱える問題についてしっかり考えることができるなど、少年の更生に資する機会と成り得るという側面もあります。

もちろん、不当・不要な少年身体拘束は回避すべきです。
しかし、長期的な観点から、少年の更生にとって何が必要であるか、一度少年事件に精通する弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
お子様が事件を起こし、対応にお困りであれば、弊所の弁護士にご相談ください。
無料法律相談初回接見サービスのご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881まで。

少年事件における身体拘束①:捜査段階

2019-12-04

少年事件における身体拘束について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県三田市にある民家を訪れ、弁護士の秘書と偽り住民女性からキャッシュカードを盗み取ったとして、兵庫県三田警察署は、Aくん(17歳)を窃盗の疑いで逮捕しました。
Aくんは、「簡単に稼げる仕事がある」と知人から紹介され、これまで数件同様の犯行を行っていました。
「仕事内容が特殊詐欺だということは分かっていたが、簡単に大金が手に入るのと、一度やったらやめるとは言いにくくなった。」と供述しています。
逮捕の連絡を受けたAくんの家族は、警察から「身体拘束期間は長くなることを覚悟してください。」と言われて、今後のことが心配になり、急いで少年事件に精通する弁護士に相談することにしました。

(フィクションです)

20歳未満の者(以下、「少年」といいます。)が事件を起こした場合、少年であっても身体拘束を受ける可能性があります。

捜査段階での身体拘束

少年事件を起こすと、成人の刑事事件の場合と同様に、捜査段階では刑事訴訟法が適用されることから、捜査機関に逮捕される可能性はあります。
ただし、14歳未満の者に対しては、刑事責任は問われませんので、犯罪は成立せず、捜査機関によって逮捕されることはありません。

逮捕後の流れは、次の通りです。
逮捕から48時間以内に、警察は事件を検察に送るか、それとも少年を釈放するかを決めます。
警察から検察に少年の身柄付きで送致されると、検察は少年の身柄を受けてから24時間以内に、送られてきた関係書類や少年の弁解を聴いた上で、少年を釈放するか、それとも勾留請求をするかを決定します。
勾留請求がなされると、裁判官は少年と面談をした上で、少年を勾留するか、釈放するかを判断します。
勾留が決定すると、勾留請求がされた日から原則10日間身柄が拘束されることになります。

身体拘束は、成人にとっても重大な不利益となりますが、心身ともに未熟で発展途上である少年の場合は、成人以上に重大な悪影響を与えるでしょう。
長期の身体拘束により、学校や職場に行くことができず、退学や懲戒解雇となる可能性も高まります。
そうなれば、身体拘束少年の更生に資するどころか逆に作用しかねません。

このように、少年にとって身体拘束は重大な不利益を及ぼし得るものですので、少年法は、少年の勾留について、勾留についての特則や勾留に代わる観護措置の制度を設けるなどし、少年に対する身体拘束に配慮しています。

勾留についての特則

少年を勾留する場合、成人の場合と同様の「勾留の要件」に加えて、「やむを得ない場合」であることが必要とされます。
また、少年の勾留場所を、少年鑑別所とすることができます。
少年を警察留置施設で勾留する場合であっても、少年を成人とは分離して収容されます。

勾留に代わる観護措置

検察官は、刑事訴訟法上の勾留の要件を満たすと判断した場合でも、裁判官に対して勾留に代わる観護措置の請求をすることができます。
勾留に代わる観護措置の手続は、基本的に勾留に関する規定が準用されますが、次の点が勾留とは異なります。

●勾留に代わる観護措置には、少年鑑別所収容の観護措置に加えて、家庭裁判所調査官による観護の方法もとることができます。
●勾留は延長が出来るのに対して、勾留に代わる観護措置の期間は、検察官の請求があった日から10日間であり、延長することはできません。
●勾留に代わる観護措置として少年鑑別所収容がとられた事件が、家庭裁判所に送致されると、当然に家庭裁判所送致後の少年鑑別所収容の観護措置とみなされ、引き続き身体拘束を受けることになります。

このように、少年であっても、家庭裁判所に送致される前の捜査段階において身体拘束を受ける可能性はあります。
勾留延長が認められると、逮捕から最大で23日間もの身体拘束を余儀なくされてしまいます。
その間、学校や職場には行くことはできませんので、先述したように退学や懲戒解雇となる可能性は高くなります。

そのような事態を防ぐため、長期の身体拘束を回避すべく関係各所に働きかけることが重要です。
弁護士は、逮捕から勾留請求までの間に、勾留の要件を満たしていないことを客観的な証拠を付して検察官に主張し、検察官が勾留請求しないよう働きかけます。
検察官が勾留請求をした場合には、裁判官に対して、同様に勾留を決定しないよう主張します。
裁判官が勾留を決定した後であっても、勾留に対する準抗告という勾留決定に対する不服申し立てを行います。

このような活動は、刑事事件・少年事件に精通した弁護士に任せるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
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刑事事件で執行猶予

2019-10-31

刑事事件で執行猶予

刑罰の種類と執行猶予について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県加西警察署に詐欺容疑で逮捕された会社員のAさんは、借金返済のためにネットで募集していた高額アルバイトに応募し、いわゆる「受け子」として特殊詐欺に関与していました。
警察からは、正式裁判になると言われているAさんは、どうにか実刑判決は避けられないものかと、接見にきた弁護士に執行猶予について聞いています。
(フィクションです)

刑罰にはどんなものがあるの?

刑罰は、犯罪に対する反作用であり、犯罪を行った者に対して科される制裁であるとされます。
刑法および特別刑法において「刑」とされる刑罰は、刑法第9条に定められる主刑または付加刑としての7種類の刑を指します。

第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

「主刑」とは、独立に科し言い渡すことができる刑罰をいい、「付加刑」とは、主刑に付加してのみ科し言い渡すことができる刑罰をいいます。

刑罰を科せられることによって受刑者がはく奪される法益という観点から、刑罰を種類分けすると、次のように分けられます。

(1)生命刑:受刑者の生命を剥奪する刑罰(死刑)
現行法上最も重い究極の刑罰です。
死刑は、刑事施設内において、絞首して執行されます。

(2)自由刑:受刑者の自由を剥奪する刑罰(懲役刑、禁錮刑、拘留刑)
①懲役
懲役は、最も主要な刑罰ですが、死刑に次ぐ重い刑罰となっています。
「所定の作業を行わせる」点で禁錮や拘留とは異なります。
無期及び有期の場合があり、有期は1月以上20年以下とされています。
ただし、有期懲役を加重減軽する場合には、30年にまで引き上げることができ、1月未満に引き下げることができます。
②禁錮
所定の作業がない点で懲役と異なりますが、希望により許可されることもあります。
③拘留
30日未満の短期自由刑で、軽微な犯罪に対する刑として定められています。

(3)財産刑:受刑者から一定額の財産を剥奪する刑罰(罰金刑、科料刑、没収)
①罰金
1万円以上の財産刑です。
②科料
千円以上1万円未満の軽微な財産刑で、軽微な犯罪に対する刑として定められています。
罰金・科料を完納することができない場合には、労役場に留置されます。
③没収
上の主刑に付加して科される財産刑で、物の所有権を剥奪して、国庫に帰属させる処分をいいます。
没収の対象となるのは、以下のものです。
・偽造通貨行使罪における偽造通貨など、犯罪行為を組成した物。
・殺人に使用された凶器であるナイフなど、犯罪行為のために用い、又は用いようとした物。
・通貨偽造罪における偽造通貨など、犯罪行為によって生じた物、又は賭博によって得た金銭など、犯罪行為によって得た物、犯罪行為の報酬として得た物。
・犯罪行為によって生じた物、犯罪行為によって得た物、犯罪行為の報酬として得た物の対価として得た物。
没収は、その物が共犯者を含む犯人以外の者に帰属しない場合に限り許可されます。

有罪判決が言い渡されると、上のような刑罰が科される可能性があるわけですが、検察官に起訴され、有罪となった場合、必ずしも言い渡された刑罰がすぐに執行されるわけではありません。

執行猶予とは

執行猶予とは、一定の期間他の刑事事件を起こさないことを条件として、刑の執行を猶予する制度をいいます。
執行猶予付きの判決が言い渡された場合、すぐに刑務所に行くことはなく、執行猶予期間中に無事に経過すれば、裁判官から言い渡された刑罰を実際に受けなくて済むのです。

執行猶予の対象となる要件は、
①前に禁固以上の刑に処せられたことがない者、
②前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者
について、3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡す場合となります。
しかし、以上の要件は執行猶予の対象となる要件であり、執行猶予を付けるか否かは、裁判官が決めます。
上の要件を満たしており、かつ、「本人が反省している」「犯罪が悪質でない」「執行猶予を付しても再犯のおそれがない」といった情状が考慮され、執行猶予を付けるか否かを判断します。

刑事事件を起こし、有罪となった場合でも、執行猶予により直ちに刑務所に入ることなく社会に復帰することができるのです。
執行猶予とならないかお困りの方は、刑事事件に精通する弁護士に執行猶予獲得に向けた弁護活動を依頼されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
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少年審判の流れ

2019-10-26

少年審判の流れ

少年審判の流れについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県神戸市灘区に住むAくんは、窃盗の容疑で兵庫県灘警察署に逮捕されました。
その後、釈放され在宅事件として捜査は進み、神戸家庭裁判所に送致されました。
Aくんの両親は、少年審判に向けてどう準備すればよいか分からず弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

少年審判の特徴

刑事事件の公判と比べると、少年審判には、次のような特徴があります。

(1)職権主義的審問構造

刑事裁判では、検察官および被告人・弁護人による主張・立証や意見陳述を公判手続の基本に置き、裁判所の職権的な活動は補充的なものにとどめる「当事者主義」に基いて進められます。
一方、少年審判は、家庭裁判所が自ら審判手続を主導し、少年に関する調査を行い、その結果をもとに審理を行って処分を言い渡すものであり、職権主義的審問構造がとられています。
この理由には、裁判所による合理的な職権行使により、非行事実だけではなく、非行に至る動機・背景、少年の成育歴、家庭環境、性格・資質などを柔軟に調査・考慮することが可能となり、少年一人ひとりに合った審理を行うことで、少年の健全育成の確保という少年法の趣旨に沿うことが挙げられます。

(2)非公開

少年審判は原則として非公開とされています。
成長発達途上にある少年の情操を保護し、社会復帰を円滑に進める必要があること、少年やその家族のプライバシーに深くかかわる要保護性の審理を適切に行うためには、手続内容の秘密性が求められるためです。

(3)証拠法則

予断排除の原則や伝聞法則の適用がなく、裁判官が審判期日の前からあらゆる証拠に触れることができます。

少年審判の流れ

少年審判は、審判手続や進行について裁判官の裁量が大きくなっています。
ですので、審判の進行は裁判官によって異なることもありますが、概ね次の順序により行われます。

①人定質問、黙秘権の告知、非行事実の告知、非行事実に関する少年・付添人の陳述
         ↓
②非行事実の審理(証人尋問、少年本人質問)
         ↓
③要保護性の審理(少年本人質問、保護者・関係者への質問等)
         ↓
④調査官・付添人の処遇意見の陳述、少年の意見陳述
         ↓
⑤決定の言渡し

①人定質問、黙秘権の告知、非行事実の告知、非行事実に関する少年・付添人の陳述

人定質問
裁判官が審判廷の在席者を確認し、少年や保護者等について人定質問(人違いでないかどうかの確認するための質問)が行われます。

黙秘権の告知
少年審判規則は、裁判官が第1回審判期日の冒頭で、少年に対して黙秘権についてわかりやすく説明をしなければならないことを規定しています。

非行事実の告知とこれに対する少年の陳述
裁判官から審判に付すべき事由の要旨が告げられ、これに対する少年の陳述が行われます。

非行事実に関する付添人の陳述
付添人に対しても、非行事実に対する陳述が求められます。

②非行事実の審理

証人尋問
非行事実に争いのある事件では、証人尋問を行うことが多くなっています。
裁判所および付添人は証人に尋問をすることができます。

少年本人質問
次に、裁判官および付添人は、少年に対して質問を行います。

③要保護性の審理

少年本人質問
裁判官および付添人は、要保護性に関する質問を少年に対して行います。
要保護性についての質問は、最後に調査官からも行われます。

保護者・関係者に対する質問
次に、少年の保護者や審判に在席している関係者に対して、要保護性に関連する質問を少年に対して行います。

④調査官・付添人の処遇意見の陳述、少年の意見陳述

調査官の処遇意見の陳述
調査官は、審判において、裁判官の許可を得て意見を述べることができますが、調査官の処遇意見は、事前に裁判所に意見書として提出してあるので、審判時に改めて裁判官が調査官に意見を求めることはそう多くありません。

付添人の処遇意見の陳述
付添人も、審判において、裁判官の許可を得て意見を述べることができます。
付添人の意見も、事前に意見書として裁判所に提出してあります。

少年の意見陳述
最後に、裁判官が少年の意見を求め、少年が意見を述べます。

⑤決定の言渡し

審判の全ての手続が終ると、裁判官が決定を言い渡します。
言渡しでは、少年に対する処分の内容を述べ、次に、処分の理由について説明がなされます。

審判の時間は、非行事実に争いがなく、1回の審判で決定まで言い渡す事件では、だいたい40~60分程度となることが多いでしょう。

少年審判の流れは以上の通りとなりますが、少年に対する処分の決定には、少年審判までの活動が大きく影響します。
特に、審理対象のひとつである要保護性の解消については、審判までにしっかりと環境調整を行い、要保護性が解消されたと調査官や裁判官に認めてもらうことが重要です。

お子様が事件を起こしお困りであれば、少年事件・刑事事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

身柄解放~保釈~

2019-10-24

身柄解放~保釈~

保釈について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県南あわじ市で侵入盗が多発していました。
兵庫県南あわじ警察署は、犯人特定に向けて捜査を進めていたところ、兵庫県内に住むAとBの犯行であることを突き止めました。
兵庫県南あわじ警察署は、窃盗および住居侵入の疑いでAとBを逮捕しました。
AおよびBは勾留となり、その後神戸地方検察庁洲本支部に同罪で起訴されました。
(フィクションです)

保釈とは

一定額の保釈保証金を納付することを条件に、被告人に対する勾留の執行を停止し、その身体拘束を解く裁判とその執行を「保釈」といいます。
保釈は、被告人に対してのみ認められるものですので、起訴される前の被疑者段階では保釈により釈放されることはありません。

保釈の種類

保釈には、「権利保釈」、「裁量保釈」、義務的保釈」の3種類あります。

1.権利保釈

裁判所は、保釈の請求があったときは、原則として保釈を許可しなければなりません。
例外として、権利保釈の除外事由がある場合には、請求を却下することができます。
除外事由は、次の通りです。
①被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
②被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
③被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
④被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑤被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥被告人の氏名又は住居が分からないとき。

2.裁量保釈

裁判所は、権利保釈の除外事由がある場合でも、適当と認めるときは、職権で保釈を許可することができます。

3.義務的保釈

裁判所は、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、請求によりまたは職権で、保釈を許可しなければなりません。

保釈保証金の相場

裁判所は、保釈を許可する場合、保釈保証金の金額を決めます。
その金額は、被告人の出頭を確保するものでなければなりません。
犯罪の性質や情状、証拠の証明力、被告人の性格や資産を考慮して、被告人の出頭を確保するのに十分な額が決められます。
ですので、重罪かつ資力のある被告人のであれば、保釈保証金が高額となります。
被告人の資産が特段高額でなく、執行猶予が見込まれるような事件の場合は、保釈保証金は200万円程度となることが多いでしょう。

保釈中に気を付けること

保釈が許可され、保釈保証金を納付し、無事釈放となったからといっても、事件自体は終了していません。
保釈されてから判決までの間に守らなければならない事項があります。
この保釈の条件は、被告人の性格や事件の内容・性質などによって事件毎に異なります。
ほとんどの事件で付される条件は、
・被告人の住居を制限する。
・被害者や共犯者との接触を禁止する。
などが挙げられます。
このような裁判所が定めた条件に違反した場合、裁判所は、検察官の請求により、又は職権で、保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができ、取り消されると再び身体拘束されることになります。
また、保釈保証金も没収されてしまう可能性がありますので、定められた条件に違反しないよう十分に気を付けなければなりません。

保釈保証金の返還

保釈の条件を遵守し、裁判が終れば保釈保証金は戻ってきます。
保釈保証金は、被告人をきちんと裁判に出席させるためのものですので、有罪判決・無罪判決、実刑判決・執行猶予付き判決に関係なく、保釈時の条件に違反しなければ返還されます。
保釈保証金の返還時期は、判決後から2,3日ほどとなっています。

逮捕後、勾留となり長期間の身体拘束を余儀なくされていた方も、保釈で釈放される可能性はありますので、保釈について事前に弁護人にご相談されるのがよいでしょう。

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警察における処理~微罪処分と簡易送致~

2019-10-16

警察における処理~微罪処分と簡易送致~

微罪処分簡易送致について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県西脇市にあるスーパーで商品4点(計3000円相当)を万引きしたとして、Aさんは店の外に出た際に、警備員に取り押さえられました。
Aさんは、兵庫県西脇警察署で取り調べを受けましたが、その日に釈放されました。
Aさんは、警察から「また呼び出すかもしれない。連絡がとれるようにはしておくように。」とだけ言われましたが、数か月なんの連絡もありません。
この先どうなるのか心配になったAさんは、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

捜査が終結すると~警察での事件処理~

捜査が開始され、その捜査にも一応の目途がつくと、捜査は終結します。
捜査は、警察または検察官が処理することで終結することになります。
今回は、警察における事件処理についてみていきましょう。

警察が犯罪の捜査をした場合、ある一定の場合以外は、速やかに書類や証拠物とともに事件を検察官に送致することになっています。
その例外として、
①告訴・告発・自首を受けた事件
②身柄拘束の法定期間からくる例外
③少年法41条による例外
微罪処分
簡易送致
とがあります。

微罪処分について

犯罪が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについて、警察は、事件を送致しないことができます。(刑事訴訟法246条但書、捜査規範198条)
この処分を「微罪処分」といいます。
どの事件が微罪処分の対象となるかは、検事総長の通達に基づいて、各地方検察庁のトップである検事正が一般的指示の形で決まります。
対象となる事件は、各地方検察庁により異なりますが、概ね、被害額や犯情などが軽微であり再犯のおそれがない、窃盗、詐欺、横領、盗品等譲受け等、賭博といったものです。

簡易送致について

簡易送致は、微罪処分に似ていますが、少年事件について行われるものです。
検察官または家庭裁判所があらかじめ指定した事件であり、事実が極めて軽微で、再犯のおそれがなく、刑事処分又は保護処分を必要としないものについては、通常の送致の手続をとりません。
簡易送致では、少年事件簡易送致書というものを作成し、1か月分まとめて検察官あるいは家庭裁判所に送致します。

微罪処分簡易送致ともに、警察段階で事件が終了していますので、前科がつくことはありません。
「前科」というのは、検察官に起訴され、裁判所に有罪判決で刑が言い渡された事実です。
略式起訴で略式命令を受け罰金刑となった場合も、正式裁判で有罪判決(執行猶予判決を含む)を言い渡されたも、前科がつくことになります。
微罪処分簡易送致で事件が終了した場合、「前科」はつかなくとも、「前歴」はつくことに注意が必要です。
「前歴」とは、刑事事件の被疑者として捜査対象となった事実です。
前歴については、警察および検察の管理するデータに保存されますので、次回犯罪を起こしてしまった場合には、初犯として扱われることはありません。

あなたやあなたの家族が刑事事件を起こしてしまい、対応にお困りであれば、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に今すぐご相談ください。
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捜査の端緒~職務質問~

2019-10-05

捜査の端緒~職務質問~

捜査の端緒職務質問)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県神戸市東灘区の路上をライトを点灯せずに自転車で通行していたAさん。
すると、兵庫県東灘警察署の警察官に呼び止められ、職務質問を受けました。
Aさんは、職務質問を拒否し、その場を立ち去ろうとしたところ、警察官が自転車のハンドルを持っていたため、うまく立ち去ることが出来ませんでした。
Aさんは、そのまま職務質問を受けたところ、乗っていた自転車が盗難車であることが発覚し、そのまま兵庫県東灘警察署で取り調べを受けることになりました。
しかし、Aさんは警察官の職務質問に不満があるようです。
(フィクションです)

前回、「捜査の端緒」のうちの①被害者や被害関係者の届出、告訴・告発、について説明しました。
今回は、②警察官による現認、職務質問、取調べ、のうちの「職務質問」についてみていきたいと思います。

職務質問

職務質問というのは、警察官が、「何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」等を、「停止させて質問すること」です。(警職法第2条1項)
職務質問は、主として、これから行われようとする犯罪の予防、及び、すでに行われた犯罪の鎮圧を目的として、街頭などで日常的に行われています。
職務質問の対象となるのは、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」、
①罪を犯したと疑われる者、
②罪を犯そうとしていると疑われる者、
③すでに行われた犯罪について知っていると認められる者、
④犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者
です。
警察官は、このような者を「停止させて質問する」ことができますが、その場で質問をすることが本人に対して不利であり、また交通の妨害となると認められる場合には、付近の警察署、派出所、駐在所に「同行」を「求めることができ」ます。(警職法第2条2項)
これは、行政警察目的の任意同行で、犯罪捜査の一環である司法警察目的の任意同行とは区別されます。

職務質問およびその後の任意同行は、あくまでも「任意」であるので、要求に対する協力は強制されるものではありません。
ですので、制度上、警察から職務質問を受けても対応や回答を強いられることはなく、拒否して立ち去ることは可能です。

しかし、職務質問においては、逮捕の場合ような強制力を行使することはできないとしても、対象者が停止、応答ないし同行を拒む場合、言語による説得のみが許されるとしたら、職務質問の持つ犯罪防止・鎮圧の目的が実質的に意味を持たないことになります。
法文上、身柄の拘束や意に反する連行が認められないことは明らかで、犯罪がまさに行われようとしている際に抑止が認められますが(警職法第5条)、それ以上の規定はなく、職務質問における「停止」の意義、つまり、職務質問の際の有形力の行使が認められるかが問題となります。

この点、最高裁は、任意捜査における有形力の行使につき、強制手段にわたらない限り、「必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される」としています。(最三小決昭51・3・16)
この「必要性、緊急性、相当性」を判断する際の考慮要素として、
・対象者の嫌疑の内容と程度
・対象者の対応、
・侵害される対象者の利益と程度
・警察側の対応、
・有形力行使の態様・程度
などが多くの裁判例で挙げられています。

過去の判例で、以下の行為は適法とされました。
職務質問中に逃げた者を130メートル追いかけ、背後から腕に手をかけ停止させた行為。
・酒気帯び運転の嫌疑がある者の逃走防止のため、窓から手を入れてエンジンキーを回してスイッチを切った行為。
・交通整理等の職務に従事していた警察官につばを吐きかけた通行人の胸元をつかみ歩道上に押し上げた行為。
・ホテルの宿泊客に対する職務質問を継続するため、ドアを押し開け、ドアが閉められるのを防止した行為。

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捜査の端緒~被害届・告訴・告発~

2019-10-04

捜査の端緒~被害届・告訴・告発~

捜査の端緒被害届告訴告発)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県三田市にあるマンションに住むAさんは、マンションの駐輪場に原付を止めていましたが、大型のバイクの止め方が気に食わず、怒りに任せてバイクを蹴って倒してしまいました。
Aさんは、倒したバイクを起こすことなくそのまま放置してその場を立ち去りました。
バイクの持ち主も、最初はたまたまこけたのかと思っていましたが、その後も何度かバイクが倒れていたため、誰かが故意にやっているのではないかと思い、兵庫県三田警察署に相談に行きました。
マンションに警察官が来ているところを見たAさんは、自分が被疑者として調べられているのではないかと思い、気が気でなりません。
(フィクションです)

捜査の端緒

捜査は、捜査機関が「犯罪がある」と考えるときに開始されます。
そのように考えるきっかけを「捜査の端緒」と呼び、概ね次のものが挙げられます。
①被害者や被害関係者の届出、告訴告発
②警察官による現認、職務質問、取調べ
③犯人の自首

被害者や被害関係者の届出、告訴・告発

事件の被害者が警察に被害届を提出したり、告訴を行ったり、関係者からの告発があった場合に、当該事件が捜査機関に発覚するケースは少なくありません。

(A)被害届
犯罪被害者が、捜査機関に対して、犯罪による被害の事実を申告する(被害届の提出)ことにより、捜査が開始される場合があります。

(B)告訴
犯罪の被害者及びその他の告訴権者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、その訴追を求める意思表示を「告訴」をいいます。
被害届が犯罪事実の申告行為のみであるのに対して、告訴は犯人の訴追・処罰を求める点で異なります。
告訴は、犯罪事実に対して行うものであって、犯人に対して行うものではありません。
ですので、告訴の内容としては犯人の特定は必ずしも必要ではなく、判例は、親告罪である名誉棄損被告事件において、告訴には必ずしも被告人の氏名を指定する必要はないとしています。
告訴することができるのは、原則、犯罪被害者と被害者の法定代理人です。
告訴することができるのは、犯人を知った日から6ヶ月です。
告訴は、書面または口頭で、検察官または司法警察員に行い、告訴は、公訴の提起があるまで取り消すことができます。
しかし、いったん取り消した後は、再度告訴することはできません。

告訴は、親告罪においては特に重要な意味を持ちます。
「親告罪」というのは、告訴がなければ公訴を提起することができない罪のことです。
例えば、未成年者略取誘拐罪、名誉棄損罪、侮辱罪、過失傷害罪、器物損害罪などです。

(C)告発
告発は、第三者が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、犯人の訴追・処罰を求める意思表示です。
告発の手続や効果は、告訴の場合に準ずることになりますが、代理人によることができないこと、期間の制限がないこと、起訴後の取消や取消後の再告発が禁止されていないことが異なります。

被害届の提出、告訴がされたら

被害者等から捜査機関に被害届が提出されたり告訴された場合、捜査機関は捜査を開始します。
捜査機関が被疑者を特定し、逮捕の要件を満たすと判断されれば、被疑者を逮捕することもあります。
しかし、捜査機関に事件が発覚する前に、被害者との示談が成立し、被害届の提出や告訴を行わない旨の約束ができれば、捜査機関が捜査を開始することもなく事件は終了します。
被害者等が既に被害届を警察に提出していたり、告訴をしてしまっていた場合でも、早期に被害者との示談を成立させ、被害届告訴を取り下げてもらえれば、不起訴処分となる可能性も高まります。

このように、事件の早期解決には、被害者との示談の有無が大きく影響するわけですが、加害者が直接被害者と示談交渉することは困難です。
なぜならば、元々被害者と加害者が知り合いであるといった場合や被害者が加害者と連絡をとりたいと申し出る場合を除いて、捜査機関が加害者に被害者の連絡先を教えることはありません。
また、加害者に対する恐怖や嫌悪感から加害者と直接連絡をとることを承諾する被害者も少なく、加害者が被害者の連絡先を入手することは極めて難しいのです。
ですので、被害者との示談交渉は弁護士に任せるのが一般的です。
弁護士限りであれば連絡先を教えてもよいと回答する被害者の方も多くいらっしゃいますし、当事者同士であれば感情的になりがちな話し合いも、代理人を立てることで冷静にすすめることができます。

あなたやあなたのご家族が刑事事件を起こし、対応にお困りであれば、今すぐ刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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強盗と恐喝の区別とは?

2019-09-26

強盗と恐喝の区別とは?

強盗罪と恐喝罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
兵庫県川辺郡猪名川町の公園で、会社員の男性Vに因縁をつけて金銭を巻き上げようと、Vに対して少年Aは、「ちょっとお金貸してくれませんか?痛い目にあいたくないでしょ。」と鉄バットを手に持った状態でVを脅し、所持金5千円を奪いました。
しかし、少年Aは、Vがもっと金を持っているだろうと思い、「まだ持ってるんやったら、出してくれへん?」と言ったところ、Vがこれを拒否したので、その場でVの顔面等に対して殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせ、抵抗できなくなったVから現金2万円を奪って逃走しました。
Vはすぐに最寄りの交番に駆け込み、警察官に被害届を出しました。
兵庫県川西警察署は県内に住む少年Aを強盗致傷の容疑で逮捕しました。
(フィクションです)

カツアゲで成立し得る犯罪とは?

1.恐喝罪

第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

恐喝罪は、人を恐喝して財物を交付させた場合、及び、人を恐喝して、財産上不法の利益を得、又はこれを他人に得させた場合に成立する犯罪です。
恐喝」とは、暴行又は脅迫により被害者を畏怖させることをいい、恐喝は財物又は財産上の利益の交付に向けられたものでなければなりません。
恐喝罪が成立するためには、被害者の意思に基づいて交付行為がなされることが必要となり、畏怖状態を生じさせる暴行・脅迫の程度は、被害者の反抗を抑圧するに至らないものでなければなりません。
つまり、相手方からの暴行・脅迫によって恐れおののいた被害者が、仕方なく自己の財物を相手方に渡したり、支払いを免除する等の財産上不法の利益を得させることが必要となります。

2.強盗罪

第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

強盗罪は、暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強手した場合、及び、暴行又は脅迫を用いて、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合に成立する犯罪です。
強盗罪における暴行・脅迫の程度は、判例及び通説によれば、「被害者の反抗を抑圧する程度」のものであることが必要です。
その程度に達していない場合には、強盗罪ではなく恐喝罪が成立するにすぎません。
強盗罪が成立するためには、暴行・脅迫により、被害者の反抗を抑圧して財物を奪取する(=強取)が必要となるのです。
反抗が抑圧された被害者から、その意思に反して財物を奪取する行為、反抗が抑圧された被害者が差し出した財物を受け取る行為、反抗を抑圧され、逃げ出した被害者が放置した物を取る行為も「強取」に当たります。

また、強盗犯人が人を負傷・死亡させた場合には、強盗致死傷罪が成立します。
強盗致死傷罪は、刑法第240条に次のように規定されています。

第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

強盗犯人(既遂・未遂を問わない)が、人を負傷させた場合に、強盗致傷罪が成立します。
死傷の結果は、強盗の手段である行為から生じることを要するとの立場もありますが、判例・通説は、死傷結果は、強盗の機会に行われた行為から生じたもので足りるとする立場をとっています。
法定刑は無期又は6年以上の懲役と厳罰が定められています。

通常、カツアゲ行為であれば恐喝罪が成立します。
上記ケースでは、最初にAは、被害者Vに対して、鉄バットで威嚇しながら金銭を出すように申し付けて脅しています。
この脅迫に畏怖したVは、Aに持っていた5千円を渡しています。
この一連の行為は、恐喝罪が成立します。
さて、その後、更に金を巻き上げることができると思ったAは、再度Vに対して脅迫した上で金銭を要求していますが、Vが拒否したため、Vが抵抗できなくなるまで暴力を振るい傷害を負わせ、Vから現金2万円を奪っています。
この第二の行為に用いられた暴行は、Vの反抗を抑圧する程度のものであり、抵抗できなくなったVから現金を奪っているため、もはや恐喝罪ではなく強盗罪、今回は強盗の結果Vに怪我を負わせていますので、強盗致傷罪が成立するでしょう。
第一の行為では、恐喝罪が、第二の行為では強盗致傷罪が成立することになりますが、同一の被害者に対する同一の犯意に基づく金銭奪取犯罪であるため、恐喝罪は強盗致傷罪に吸収され、強盗致傷罪のみによって処罰されることになるでしょう。

カツアゲ事件で見込まれる処分は?

強盗致傷罪は、刑事事件であれば裁判員裁判の対象となる犯罪です。
少年事件であっても、カツアゲ事件が恐喝罪に当たる場合、共犯がいたり凶器を用いたりと犯情が悪いという場合を除いて、いきなり少年院送致となるケースはそう多くありません。
しかし、強盗罪や強盗致傷罪となれば、初犯であっても少年院送致が言い渡される可能性は高まります。

お子様が強盗致傷事件で逮捕されてお困りであれば、少年事件を数多く取り扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に今すぐご相談ください。
詳しくは、フリーダイヤル0120-631-881までご連絡を!

強盗殺人罪と公訴時効

2019-09-25

強盗殺人罪と公訴時効

強盗殺人罪公訴時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。

~ケース~
1993年に兵庫県多可郡多可町で起きた強盗殺人事件から26年が経過した今年、兵庫県西脇警察署などは、県外に住むAさんを強盗殺人の容疑で逮捕しました。
Aさんは別件で捜査を受けていましたが、Aさんから採取したDNAと現場に残されていた凶器に付着していたDNAとが一致したため、Aさんが強盗殺人事件の容疑者として浮上したということです。
Aさんは「覚えていない。」と容疑を否認しています。
(フィクションです)

公訴時効について

刑事法における「時効」には、①刑の時効、と②公訴時効の2種類があります。
①の「刑の時効」というのは、刑事裁判で刑の言渡しを受けた者が、一定期間その執行を受けないことにより刑罰権が消滅することをいいます。
死刑は、刑の時効にかかりませんが、刑の時効の期間は、刑の種類とその重さによって定められています。
例えば、裁判での宣告刑が、無期懲役・禁錮であった場合は、刑の時効期間は30年、10年以上の有期懲役・禁錮は20年、3年以上10年未満の懲役・禁錮は10年です。
刑の時効の起算点は、裁判で刑の言渡しがあり、かつそれが確定した時点です。
ちなみに、刑の施行猶予期間中は、刑の時効は進行しません。
裁判で執行猶予判決が言い渡され、無事に執行猶予期間を終えた場合には、刑の言渡しの効力が失われますが、これは刑の時効とは別の制度です。

さて、刑事事件で「時効」といえば、一般的には②の「公訴時効」を指します。
公訴時効」は、一定期間内に公訴を提起することを訴訟条件とするものです。
つまり、一定の期間が経過することにより公訴の提起ができなくなるという制度です。
公訴を提起することが可能な一定の期間を経過してしまった場合には、判決で免訴の言渡しをしなければなりません。

公訴時効の期間は、対象となる法定刑を基準に定められています。

●公訴時効なし
人を死亡させて、死刑に当たる罪(殺人罪、強盗殺人罪など)に関しては、公訴時効はありません。
●公訴時効30年
人を死亡させて、無期懲役・禁錮刑にあたる罪(強制性交等致死罪、強制わいせつ致死罪など)については、公訴時効は30年となります。
●公訴時効25年
人を死亡させていない、死刑に当たる罪(現住建造物等放火罪など)に関しては、公訴時効は25年です。
●公訴時効20年
人を死亡させ、長期20年の懲役・禁錮に当たる罪(傷害致死罪、危険運転致死罪など)については、公訴時効は20年となります。
●公訴時効15年
人を死亡させていない、無期懲役・禁錮に当たる罪(通貨偽造罪など)に関しては、公訴時効は15年です。
●公訴時効10年
人を死亡させて、長期20年に満たない懲役・禁錮に当たる罪(業務上過失致死罪、過失運転致死罪など)、及び人を死亡させず、長期15年以上の懲役・禁錮に当たる罪(強制性交等罪、傷害罪、強盗罪など)については、公訴時効は10年となります。
●公訴時効7年
人を死亡させず、長期15年未満の懲役・禁錮に当たる罪(窃盗罪、詐欺罪、業務上横領罪、強制わいせつ罪など)の公訴時効は7年です。
●公訴時効5年
人を死亡させず、長期10年未満の懲役・禁錮に当たる罪(監禁罪、単純横領罪など)に関して、公訴時効は5年です。
●公訴時効3年
人を死亡させず、長期5年未満の懲役・禁錮または罰金に当たる罪(住居侵入罪、公然わいせつ罪、脅迫罪、名誉棄損罪、威力業務妨害罪など)については、公訴時効は3年です。
●公訴時効1年
人を死亡させず、拘留または科料に当たる罪(侮辱罪、軽犯罪法違反など)についての公訴時効は1年です。

公訴時効は、「犯罪行為が終わった時」から進行します。
共犯の場合には、「最終の行為が終わった時」から、すべての共犯に対して時効の期間を起算します。
「犯罪行為が終わった時」というのは、結果犯の場合は結果が発生した時を意味します。
挙動犯や未遂の場合は、実行行為が終了した時が、時効期間の起算点となります。

さて、上の公訴時効は、2010年の刑事訴訟法改正に伴い改正されたものです。
それ以前は、殺人や強盗殺人といった重大事件についても公訴時効が定められていました。
強盗殺人罪公訴時効は、刑事訴訟法が2010年に改正される前は、25年でした。
ですので、犯行当時1993年の法律では、2018年の犯行終了時に公訴時効が成立することになっていました。
しかし、この点、2010年の改正刑事訴訟法は、経過措置について定めており、改正後の刑事訴訟法第250条(公訴時効期間)は、改正刑事訴訟法の施行の際に「既にその公訴の時効が完成している罪については、適用しない」とし、人を死亡させた罪であって禁固以上の刑に当たるもので2010年3月27日までに公訴時効が完成していない罪については、すべて2010年の改正刑事訴訟法が適用されることが規定されています。
2010年3月27日までに公訴時効が完成していないAさんのケースでは、改正後の刑事訴訟法が適用され、公訴時効はなく、2018年を過ぎても強盗殺人罪で起訴される可能性は残るのです。
この経過措置が、憲法の保障する遡及処罰の禁止と適正手続に反するとする主張が最高裁判所に提起されましたが、最高裁判所は、2010年の改正刑事訴訟法の経過措置は、公訴時効制度の趣旨を実現させるために、人を死亡させた罪であって、死刑に当たるものについて公訴時効を廃止し、懲役または禁錮の刑に当たるものについての公訴時効期間を延長したにすぎず、行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではなく、被疑者・被告人となり得る者につき既に生じた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない、として当該経過措置は憲法違反ではないとしています。

というわけで、殺人罪や強盗殺人罪などの重大事件については、公訴時効がなく、証拠が固まり次第、逮捕され起訴される可能性は残るというわけです。

重大事件をはじめ刑事事件でお困りであれば、今すぐ刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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