不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)とは
不正指令電磁的記録に関する罪(不正指令電磁的記録作成等罪)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所神戸支部が解説します。
不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆる、コンピュータ・ウイルスに関する罪)は、平成23年の改正により刑法に新たに設けられた罪で、不正指令電磁的記録作成等罪と不正指令電磁的記録取得等罪から成ります。
不正指令電磁的記録作成等
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。
(ア)不正指令電磁的記録作成・提供罪(本条1項)
本罪は、不正指令電磁的記録等を作成・提供する罪です。
構成要件は、
①正当な理由がないのに
②人の電子計算機における実行の用に供する目的で
③第1号または第2号に掲げる電磁的記録その他の記録を
④作成し、又は提供した
ことです。
①正当な理由の不存在
「正当な理由がないのに」というのは、「違法に」という意味です。
住居侵入罪の規定にもみられる「正当な理由の不存在」要件ですが、これは違法であることが本罪の成立要件であるという、当然のことを条文上明記したものです。
②目的
作成・提供罪は、目的犯です。
「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が必要となります。
「実行の用に供する」というのは、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことをいいます。
③客体
本罪の客体は、(a)「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」、および(b)「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」です。
ここでいう「人」は、犯人以外の者で、「電子計算機」とは、自動的に計算やデータ処理を行う電子装置のことをいいます。
パソコンやサーバ、スマートフォンの他、そのような機能を有するものは電子計算機に該当します。
パソコン等を使用する際に、あるプログラムが、使用者の「意図」に沿う又は反する動作をさせるものであるか否かが問題となりますが、その場合の「意図」については、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能について一般的に認識すべきであると考えられるところを基準として規範的に判断することになります。
ですので、ソフトウェアのある機能について単に利用者が知らなかった場合、通常その機能について使用者が認識できるようになっているのであれば、使用者の意図に反する動作とはなりません。
加えて、「不正な」指令であるというためには、あるプログラムの機能を踏まえて、社会的に許容し得るものでないことが必要です。
「電磁的記録」は、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものと定義されます。
つまり、電磁的記録というのは、一定の記録媒体の上に情報やデータが記録・保存されている状態を表す概念であり、情報やデータそれ自体や記録媒体そのものを指すものではありません。
また、(b)の「不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」とは、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」ものとして実質的に完成しているが、そのままでは電子計算機において動作させることができる状態にないものをいいます。
④行為
本条1項が処罰対象とする行為は、「作成」と「提供」です。
「作成」とは、当該電磁的記録等を新たに記録媒体上に存在するに至らしめることをいいます。
「提供」とは、不正指令電磁的記録等であることの情を知った上で、これを自己の支配下に移そうとする者に対し、これをその支配下に写して事実上利用し得る状態に置くことです。
このような定義より、提供罪については、先述した「人の電子計算機における実行の用に供する目的」の「実行の用に供する」は、提供の相手方以外の第三者であって、それが不正指令電磁的記録であることを認識していな者の電子計算機で実行され得る状態に置くことを指します。
(イ)不正指令電磁的記録供用罪(本条2項)
本罪は、不正指令電磁的記録を供用する罪です。
構成要件は、
①正当な理由がないのに
②前項第1号に掲げる電磁的記録を
③人の電子計算機における実行の用に供した
ことです。
②客体
本罪の対象は、先述した作成・提供罪の客体の(a)に限られています。
③行為
本罪の処罰対象とする行為は、「人の電子計算機における実行の用に供する」ことで、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことです。
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